研究課題/領域番号 |
17K08496
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
木村 英二 岩手医科大学, 医学部, 准教授 (50405750)
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研究分担者 |
人見 次郎 岩手医科大学, 医学部, 教授 (00218728)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 血管形成 / 細胞周期 / ゼブラフィッシュ / Fucci / タイムラプス・イメージング / ライトシート顕微鏡 / IR-LEGO |
研究実績の概要 |
我々は、小型魚類のゼブラフィッシュ(Danio rerio)を用いて、初期の脳血管系がいかにして構築され、その後 どのようにして椎骨動脈系と統合されるか、その全過程を明らかにすることに成功した。そして血管内皮細胞の核で特異的に蛍光を発する遺伝子組み換え体の観察から、初期に頭部灌流血液の静脈路として機能するPHBC(primordial hindbrain channel)から後脳実質を貫き脳底動脈へとループしてつながるCtA(central artery)が萌出する直前に、PHBC を構成する内皮細胞の数が劇的に増加する現象を捉えることに成功した。このことは血管系がその後の血管新生に先んじて内皮細胞の細胞分裂を進行させている、すなわち血管系の形態形成と細胞周期が協調的に制御されていることを示している。そこで本研究課題では、細胞周期を可視化するFucciを血管内皮細胞で特異的に発現するトランスジェニック・ゼブラフィッシュを作成し、得られた胚をタイムラプス・イメージングすることで、脳血管形成過程における細胞周期変化の全容を詳細に解析する。また血管新生因子として最重要な役割を果たしている vascular endothelial growth factor(vegf)遺伝子に着目し、heat shock protein(hsp)プロモーター下流につなげ、Infrared Laser-Evoked Gene Operator(IR-LEGO)を用いた熱応答により発現が誘導できる組み換え体を作成する。局所的な熱応答により時間・空間的に制御した異所的な遺伝子発現を血管周囲の神経組織や脊索で誘導することで、その後の細胞周期への影響を評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には、まず血管系で特異的にFucciを発現する遺伝子組み換え体の作成を行った。DNAコンストラクトとしては、血管系で特異的に発現を誘導するflk1遺伝子のプロモーターを用いてFucciを直接発現させるもの(flk1:Fucci)と、Gal4-UASの系によるもの(UAS:Fucci)の2種類を作成し、1細胞期の受精卵へインジェクションを行った。その結果、直接Fucciを発現誘導する系では、founderが得られなかったが、Gal4-UAS系を用いる系では、founderを得ることに成功した。そして既に作成してあったflk1:GFF(Gal4の改変体)の系統と新たに作成したUAS:Fucciの系統を交配することで、血管特異的にFucciを発現する系統を作成することに成功した。さらにこの系統の胚をライトシート顕微鏡で観察し、細胞分裂期の血管内皮細胞で緑色蛍光が、またそれ以外の細胞周期の血管内皮細胞で赤色蛍光が発現されていることを確認した。これらの発現は、発生が進行する過程で一部の細胞では切り替わっており、Fucciが機能して血管系での細胞周期が可視化されていることが確認できた。一方、熱反応で遺伝子誘導可能なDNA コンストラクトの作成では、hsp の発現制御領域下流に、膜移行シグナルを付加したEGFP(EGFPCAAX)とP2A 配列を介して各血管新生関連因子(vegf、shh、mCherryCAAX(control用))のcDNA 配列をつなげたコンストラクト(hsp:EGFPCAAX-P2A-血管新生関連遺伝子)の作成を行った。シークエンスによる確認も済んでおり、30年度にはインジェクションを進めていきラインの確立を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に作成に成功したGal4-UASを用いる系統(flk1:GFF×UAS:Fucci)を用いて、受精後1.5日目からのPHBCを中心としたタイムラプス・イメージングをライトシート顕微鏡により行い、血管形成と細胞周期の関係性を細かく解析していく。タイムラプス・イメージングには、ライトシート顕微鏡を用いるが、すでにライトシート顕微鏡を用いたゼブラフィッシュ胚のタイムラプスイメージングに関しては、十分な経験を積んでおり、イメージング開始から48時間程度の連続した観察が可能であることを確認してある。一方で、平成29年度に得た系統では、Gal4を介してからFucciが発現されるため、蛍光の発現を確認できるのが受精後1日目を過ぎた1.2-1.5日目になってしまうという問題が残っている。すなわち PHBCの形成はイメージングにより解析可能だが、より早期の15体節期から1.5dpfの間のイメージングを行うことができない。この問題を解決するために、平成30年度でも継続してflk1で直接発現誘導する系(flk1:Fucci)のfounderを得られるように、受精卵へのインジェクション並びにF0世代のスクリーニングを進めていく。また平成30年度には、熱反応で遺伝子誘導可能な遺伝子組み換えゼブラフィッシュの作成も行う。平成29年度に作成した熱反応で遺伝子発現が誘導可能となる各コンストラクトをゼブラフィッシュの1細胞期の受精卵にインジェクションし、ライン化を目指す。作成したコンストラクトでは、並列に心臓でGFPを発現するコンストラクトを組み込んであり、これによって、F0世代の各系統のfounderのスクリーニングを効率よく進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度では、予定した人件費が別予算枠で獲得できたため、その分使用する金額に余裕ができた。しかし効率的にDNAコンストラクトを作成するための合成fragmentを複数購入したため、繰越金額はほとんど生じていない。
上記のごとく繰越金額は実際にはほとんど残ってはいない。30年度の研究費は遺伝子組み換え体作成とイメージングのために科研費使用のルールを厳守して使用していく。
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