本研究課題では、小型魚類ゼブラフィッシュ(Danio rerio)を用いて、初期の血管形成と細胞周期の協調的な制御システムを明らかにすることを目的とした。そのために細胞周期を可視化するFucciを血管特異的に発現するトランスジェニク・ゼブラフィッシュの作成を行った。平成29・30年度では、血管特異的な発現を誘導するflk1遺伝子のプロモーターを用いた遺伝子組み換え体の作成に成功したが、当初作出した系統ではFucciを構成する2つのレポーター遺伝子をそれぞれ別個に発現するため、細胞周期の観察にはダブルトランスジェニック胚を交配して作成する必要があった。またレポーター遺伝子の発現強度が安定して維持されなかったために、初期の血管形成過程での細胞周期を可視化することが出来なかった。そこで令和元年度には、Fucciを構成する2つのレポーター遺伝子を自己開裂型の2A配列を介してつなげることで、単一の組み換え体で2遺伝子を同時発現する系統の作成を試みた。この方法では、単一の組み換え体で細胞周期を血管系で可視化することが可能であり、かつ原則1:1で均等にレポーター遺伝子の発現が誘導される。研究期間内では、DNAコンストラクトを新たに作成し、受精卵へのインジェクションを行いトランジェントでの血管特異的なFucciの発現を確認するところまで成功した。現在founder同定のためにF0世代のスクリーニングを進めている。founderが同定され次第、イメージングにより初期の血管形成と細胞周期の協調的な制御システムを可視化してその詳細を明らかにする。またすでに本研究課題で作成した局所的な熱応答によりvegfaやshh遺伝子を時間・空間的に制御して遺伝子の発現を誘導可能な系統を用いて、IR-LEGO顕微鏡により血管周囲の神経組織や脊索で異所的な発現誘導を行い、その後の細胞周期への影響を評価する。
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