研究課題/領域番号 |
17K08497
|
研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
冨永 薫 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20265242)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 神経幹細胞 / エピジェネティクス / ヒストンアセチル化 / 神経発生 / 神経分化 / マウスモデル |
研究実績の概要 |
幹細胞の存在が中枢神経系を含む多くの組織で報告されており、その自己複製能と分化能の厳密な調節を通じて組織の恒常性維持が保たれている。神経幹細胞は中枢神経系を構成するニューロンとグリアに分化することができる多分化能を持つ細胞で、器官形成の活発な発生期(胎児期)のみならず成体脳にも存在し、継続的に機能的な神経細胞を個体の一生を通じて供給している。神経系の構築にはエピジェネティックな調節機構が関与し、その破綻が神経幹細胞の維持や神経発生、高次脳機能に大きな影響を与える。しかしながら、エピジェネティック因子により、これらの事象がどのように制御されるのかについての詳細な分子機構は、未だ不明である。本研究では、神経幹細胞特異的Tip60欠損マウスを用いて、神経幹細胞の自己複製および神経分化におけるヒストンアセチル化の役割を明らかにすることを目的とする。当該年度は以下のことを行い、神経幹/前駆細胞でのTip60ヒストンアセチル化酵素の重要性を示した。 1、神経幹細胞特異的Tip60欠損マウス胎児は小頭症で、組織学的観察では、その異常は胎生期14.5日頃から既に明らかで、発生が進むにつれて重症化した。 2、神経幹細胞特異的Tip60欠損マウス胎児にBrdUを取り込ませ、脳における細胞増殖率を比較検討した結果、神経幹細胞特異的Tip60欠損マウス胎児脳では、増殖する細胞の低下が観察され、その低下は胎生期14.5日の脳でも有意であった。 3、神経幹細胞特異的Tip60欠損マウス胎児脳では、PAX6陽性未分化型前駆細胞 (AP: apical progenitor) もTbr2陽性中間前駆細胞 (BP: basal progenitor)も減少していた。 4、神経幹細胞特異的Tip60欠損マウス胎児脳では、細胞周期のM期マーカーであるリン酸化ヒストンH3(セリン10)陽性細胞が有意に増加していた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究目的は、おおむね順調に進展している。神経幹細胞特異的Tip60欠損マウス胎児が小頭症であるのは、1、神経幹細胞の増殖が抑制されていること(BrdUの取り込み低下)と、2、神経分化に異常があること(PAX6陽性及びTbr2陽性細胞の減少)に起因することが明らかとなった。Tip60ヒストンアセチル化酵素が神経幹細胞の維持及び神経発生の両プロセスに重要な役割を担っていることが明らかとなった。現在、ニューロスフェア法による神経幹細胞の培養法の検討を開始しており、in vitroでの解析法を確立中である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、以下について研究を進める予定である。 1、神経幹細胞の自己複製におけるTip60の役割:神経幹細胞特異的Tip60欠損マウス胎児脳より神経幹細胞を分離し、ニューロスフェア法による初代培養系で神経幹細胞の自己複製能および分化能を解析する。胎児脳から分離された神経幹・前駆細胞より形成されたスフェアの大きさと数を測定し、自己複製能を評価する。分化能は、分化促進培地で分化した細胞系譜をマーカーに対する抗体で染色することにより評価する。 2、レンチウイルスによる神経幹細胞への遺伝子発現系の構築:レンチウイルスにより神経幹細胞へ効率良く遺伝子の導入が行われることが知られている。Tip60欠損による表現型が、神経幹細胞自律的であるかどうかを確かめるために、分離培養された神経幹・前駆細胞にTip60を発現するレンチウイルスを感染させ、その増殖能や分化能が回復するかどうかを検証する。細胞増殖能の回復は、細胞数の経時的測定とブロモデオキシウリジン(BrdU) の取り込み測定によって評価する。 3、ニューロスフェアにおける遺伝子発現解析:神経幹細胞のマーカー遺伝子の発現や神経分化マーカーの発現をリアルタイムPCRを用いて定量化する。 4、脳の組織学的解析:昨年度の組織学的解析を継続し、結果の補充を行なう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、研究遂行に必要なマウスの増幅及び神経幹細胞特異的Tip60欠損マウスの経過観察に時間が必要であり、研究全般に関して費用が繰り越された。次年度は、繰越し金も合わせ、以下の様に助成金を使用予定である。 1、消耗品(1、105千円)経費の主要用途は消耗品の購入で、細胞培養試薬(培地、血清、成長因子など、250千円)、生化学・分子生物学用試薬(酵素、抗体、PCRプライマー、キット、化学試薬など、300千円)、細胞培養器具(フラスコ、プレート、ピペット、チューブ、チップなどのプラスティック類、250千円)、組織染色に必要な器具・試薬(105千円)の購入が必要とされる。2、実験動物、マウス維持費として200千円。3、学会発表などで研究成果を報告するために必要な出張旅費として100千円。4、論文を誌上発表するために必要な経費として論文投稿費用(100千円)・論文校正費(60千円)。
|