研究課題/領域番号 |
17K08498
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
和田 直之 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 教授 (50267449)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 口窩 / 頭蓋底骨格 / 発生系譜 / ニワトリ / マウス |
研究実績の概要 |
頭蓋底骨格の正中部分は軟骨性骨格として,頭部発生の比較的初期から形成される。本研究課題では,口窩天井部での軟骨原基形成の詳細や構成する細胞の発生系譜,制御する分子群の解析を目指している。本年度は,計画していた実験のうち,以下を行った。 1. 口腔天井部に分布する細胞の発生起源解析:口窩天井部に分布する細胞の発生起源,及びこの部位に分布する細胞の発生運命を調べた。その結果,主として眼胞周囲を移動する細胞が口窩天井部に移動していた。特に,眼胞後方を移動して口窩側方部に分布する細胞は,ラトケ嚢に近い部位の正中部軟骨に分化し,一方,眼胞前方を移動して口窩前方に分布する細胞はそのまま遠位側軟骨を形成した。なお,発生運命図作成に際して,マウス胚の全胚培養法の系を参考に,ニワトリ胚全胚培養系の確立を試みたが,低酸素状態が原因と考えられる発生遅延,増殖低下が確認されたため,この系の確立は次の課題である。 2. 口窩天井部特殊化過程の解析:まず,Foxd1, Foxf1, Six2など,口窩天井部の間葉細胞での発現を確認している遺伝子と軟骨原基の分布を比較した。その結果,Foxf1は軟骨原基の形成部位で,軟骨形成に先行して発現し,一方,Foxd1は軟骨原基に沿う形で発現していた。Six2はFoxd1と相補的に発現しており,口窩天井部はこれらの遺伝子の組み合わせにより領域特異化されると考えられた。一方,RNAseqにより口窩正中付近に分布する細胞で発現する遺伝子をリストアップし,発現が報告されていない遺伝子に注目して,その発現をin situ hybridizationにより調べた。約30個の遺伝子を調べたが,口窩天井部で発現する遺伝子はなかった。この中には口窩天井部を囲む顔面隆起では発現する遺伝子が複数あり,口窩天井部では周辺の顔面隆起とは異なる遺伝子発現制御が行われていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
頭部神経堤の発生系譜の再確認及び,移動後の神経堤の発生系譜は順調に解析ができて,発生初期の系譜図がほぼ完成した。本研究課題で重要視している口窩天井部の系譜図については,この部位が胚の中でも狭小であり,周囲の構造に囲まれていることからin vivoでの標識には困難な部分があった。作業方法・手順を工夫して標識を行ったところ,後の骨格形態と関連する領域特異性が明らかになった。なお,発生系譜図作成にあたり,申請時にはニワトリ胚の全胚培養系を確立させてこれを用いて解析する計画だったが,ニワトリ胚を全胚培養した結果,正常発生胚と比較できる程度に発生は進行しなかった。そのため,現段階では発生系譜図を作成するのは困難と判断して,実験は一旦停止している。今後,従来のニワトリ初期胚全胚培養系の方法を改変して,適切な手法を検討していく。 遺伝子発現を指標に口窩天井部を特殊化する機構の解析については,現段階では,いくつかの転写因子を指標に口窩天井部を定義している段階である。これまでの我々の解析から「口窩天井部での発現が確認された遺伝子」について,改めて発生部位や時期を調べ,口窩天井部の性質を考察している。一方,口窩天井部で強く発現し,その特異化に関わる遺伝子には未知のもの,あるいは既知でもこの系では機能未報告のものがあると考えて,次世代シーケンサーの結果を元に遺伝子リストの作成を行なっているが,胚での発現を直接調べてみると,口窩天井部で発現する新奇な遺伝子は現段階では確認できていない。そのため,口窩天井部とその周辺構造は遺伝子発現制御の点で異なっており,口窩天井部の細胞で発現する遺伝子は限定されていると予想している。
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今後の研究の推進方策 |
1. これまでの実験の継続: 口窩天井部で発現する遺伝子に注目して,口窩天井部での軟骨形成における機能の解析を行う。具体的には,口窩天井部で集中的に発現する転写因子のFoxd1およびFoxf1が,「口窩天井部の特殊化」や「口窩天井部の軟骨形成」に関与する可能性を予想し,その機能を調べる。これらの遺伝子を,ニワトリレトロウィルスRCASを用いて本来発現しない前頭鼻隆起などで異所的に発現させ,その隆起由来の軟骨形成への影響を調べる。一方,それぞれの機能抑制型遺伝子の導入を行い,内在性分子の機能を攪乱したときのSR由来の軟骨形成についても調べ,最終的にこれらの遺伝子産物の機能を考察する。またSR上皮ではShhやBmpなどの分泌性シグナル分子の発現が確認されている。この上皮での発現に上記Fox遺伝子群が影響する可能性を考え,遺伝子発現操作時のシグナル分子の発現変化を元に検討する。 2. マウス胚での口窩天井部の範囲の確定と,ここでの軟骨発生の系譜解析: マウス10.5日胚から12.5日胚の,口窩天井部での軟骨原基形成過程を調べる。軟骨分化指標遺伝子や,ニワトリ胚の口窩天井部で強い発現が観察された遺伝子のオーソログ遺伝子に注目して,マウス胚口窩天井部での発現を調べてニワトリの場合と比較し,口窩天井部の範囲を確定する。次いで,マウス胚頭部の発生系譜図を作成することを目指し,まずマウス胚E10.5から軟骨原基が出来るE12.5相当になるまで発生が可能な全胚培養系を確立させる。全胚培養の確立後,ニワトリ胚の場合と同様に,SRとFNPそれぞれから頭蓋底軟骨原基のどの部分が形成されるのかを調べる。このあと,軟骨分化領域との比較を行い,SRとFNPそれぞれから生じる軟骨原基についての情報を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の実験が,予定していた予算以内でおさまったことがあげられる。また次年度はマウス胚の全胚培養を計画しており,培地や試薬類,また培養機器購入などにより支出額が大きくなると予想している。この実験計画は申請時のものと変わらないが,申請額に比べて2年目と3年目の交付額が少なかったため,1年目で使用しなかった額を翌年に移行することとした。
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