研究課題/領域番号 |
17K08501
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
前田 誠司 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (10309445)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自律神経系 / 交感神経系 / 腎臓 / 軸索瘤 / 神経終末 / シュワン細胞 / インテグリン |
研究実績の概要 |
腎交感神経の各効果器への投射特性を調べる目的で、腎神経終末の軸索瘤の構成を免疫組織化学的に解析した。前年度に明らかにした節状終末(軸索瘤)におけるシナプトフィジン(SYP)の分布を元に、免疫電顕法を用いて終末部およびその周辺構造について観察した。SYP陽性終末は血管平滑筋細胞および尿細管上皮細胞の基底膜に密接に付着しており、腎組織特有の狭小な尿細管間質において、これらの終末はS-100陽性Schwann細胞によって区分されていた。腎神経線維束をSYPおよびS-100の二重免疫染色を施しその画像解析を行ったところ、標的細胞へ接着した軸索瘤が、その周囲をSchwann細胞鞘によって覆われているのが観察された。このことから、ノルアドレナリンの分泌は標的細胞に対して限局的に放出され、Schwann細胞により間質への拡散が抑えられていることがわかった。 腎神経終末軸索瘤が標的細胞に対して積極的に接着している可能性を調べるために、細胞外マトリックス結合分子であるインテグリンの発現および分布について検討した。腎神経の発生および維持には多くのインテグリン分子が関与すると考えられるが、成体腎における交感神経終末を維持するためのインテグリン分子は同定されていなかった。よって、インテグリン特異抗体を用いた免疫組織化学法で検討したところ、インテグリンのαおよびβサブユニットの終末部での発現と、そのリガンドであるファイブロネクチンの局在を同定することができた。よってインテグリンαβヘテロ二量体が、その細胞外基質リガンドであるファイブロネクチンを介して標的細胞の基底膜に接着し、終末シナプスが維持されていると考えられた。 以上の結果は第124回日本解剖学会総会(新潟)にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に腎神経節細胞の単独標識に成功し、その分布と側枝の広がりを観察したが、神経終末における構成分子群の検出はできなかった。本年度は、腎交感神経の標的細胞投射終末部の超微細形態観察と終末シナプスを維持する分子の探索に重点をおいて研究を進めた。 終末の軸索瘤を取り囲むようにSchwann細胞が神経投射をガイドしている様子が捉えられたことから、Schwann細胞が狭小な腎間質内におけるノルアドレナリン拡散を防ぎ、標的細胞への集中的な伝達物質アクセスを支持している可能性が示唆された。 一方で、腎交感神経終末の構成分子を探索し、いくつかのシナプス構成に関与する分子を同定することができた。免疫電顕法により観察したシナプトフィジン(SYP)陽性腎神経終末は、血管平滑筋および尿細管上皮の基底膜に密着していることから、基底膜成分と強い接着性を示すインテグリン分子の存在が推定されたため、αインテグリンの局在を検討した。その結果、ファイブロネクチンおよびSYPとの3重染色により基底膜ファイブロネクチンとその受容体インテグリンの発現および隣接した終末部での局在が確認された。また、βインテグリン・サブタイプについても同定できた。よって、腎神経終末を構成・維持するインテグリン二量体が推定され、基底膜との積極的な接着によるシナプス終末の維持が示唆された。 さらに神経伝達物質放出関連分子について、特殊組織固定法であるジイミドエステル固定およびグリオキサール固定を用いて、これまで検出不能であったいくつかのシナプス関連分子を免疫組織化学的に検出することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度からの課題であった腎交感神経標的細胞への投射様式について、その支持細胞であるSchwann細胞による神経終末部周囲の区画形成と数珠状終末(軸索瘤)の基底膜接着分子の候補の同定ができたことから、最終年度は、腎傷害時の交感神経活動亢進にともなう腎神経終末の病態生理学的変移を観察する。 初年度に作成しそのモデル動物として有用性が確認された、腎神経を温存した虚血/再灌流(I/R)処置ラットを用い、I/R処置による病的な交感神経活動亢進状態にある腎組織における、交感神経終末の微細形態的変化を、いくつかの分子ターゲットを指標に、組織化学的および分子生物学的に調べる。組織変移の指標として、前年度までに明らかにした尿細管上皮細胞アポトーシスおよび間質線維化要因のひとつである筋線維芽細胞の増加を用いる。すなわち、初期要因である上皮細胞アポトーシスはI/R処置後3日以内に起こり、筋線維芽細胞の急激な増加および間質線維化は3日以降に起こることから、このタイミングで交感神経活動の分子ターゲット(後述)の動態を形態変化とともに観察する。 分子ターゲットとして想定しているのは、神経終末の接着分子として本年度に明らかにしたインテグリンとそのリガンドのファイブロネクチンで、病態時におけるこれらの発現量、局在の変化を観察していく。さらに、伝達物質放出関連分子として腎神経で同定された、シナプトタグミン、シナプトポーリンおよびSV2Aについて、これらの発現、分布およびリン酸化による活性状態の分析も含めて検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度末に行う予定の動物実験について、次年度に持ち越した為、動物購入費の一部を次年度繰越とした。次年度使用額は主に動物購入費用として当てられる。
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