研究課題
受精卵の子宮内膜への着床不全は、不妊症を引き起こす。我々は、これまでに、子宮外妊娠をおこしたヒトの卵管では、ガラクトースを認識するレクチンであるガレクチンとその糖鎖との相互作用に関与するシアル酸修飾が変化することを報告してきた。ヒトでは、子宮内膜上皮の管腔側細胞膜からのムチン1(MUC1)の消失が、受精卵の受容能獲得に重要であることが知られる。MUC1分子上に存在するケラタン硫酸は、硫酸化の低下により、galectin-3のリガンドとなることから、本研究では、MUC1分子とケラタン硫酸に注目して、ガレクチンの着床メカニズムにおける役割を解析することを目的とした。初年度は、マウスを用いて、ガレクチン、シアル酸転移酵素、Muc1、Muc1上に存在するといわれるケラタン硫酸合成酵素の子宮内膜における発現と着床時における局在の変化を形態学的手法を用いて明らかにした。子宮内膜表層には、galectin-3およびMuc1が局在しており、受精卵の着床に関与する可能性が示唆された。二年目と三年目は、培養細胞を用いて解析を行った。ヒトの子宮内膜癌細胞(Ishikawa細胞)とヒトの絨毛癌細胞(栄養膜細胞株; BeWo細胞)を用いて、ニコチンおよびタバコ煙抽出物(CSE)を投与し、ガレクチンおよびシアル酸転移酵素の発現解析を行ったところ、CSE投与により、BeWo細胞のガレクチンおよびシアル酸転移酵素の発現が有意に低下し、シアル酸の修飾が低下していた。また、BeWo細胞をスフェロイド状に培養し、シート状に培養したIshikawa細胞に投与して、in vitro着床アッセイを行った。本研究により、着床メカニズムにおけるガレクチンと糖鎖の役割が明らかになれば、不妊症の新たな診断法や治療法の確立に貢献できる。
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