研究課題/領域番号 |
17K08504
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岩永 ひろみ 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (30193759)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞組織化学 / カルシウム画像 / 槍型感覚終末 / Naイオン感受性蛍光プローブ / 一次線毛 / ラット |
研究実績の概要 |
典型的皮膚感覚装置 ラット頬ひげ毛包槍型終末は,軸索周囲に薄板突起をのばす終末シュワン細胞とその予備軍 星形シュワン様細胞をグリア要素とする。2種グリアの細胞内Ca2+およびNa+濃度が随伴ニューロンの活動に応じていかに変動し得るかを調べるため,遺伝子改変ラットTg[S100b-EGFP]から分離した槍型終末を観察材料とし,高速二光子励起顕微鏡を用いて以下の実験1,2を行なった。 実験1.標本にCa2+感受性蛍光色素Fura-2を負荷して顕微鏡ステージに載せ,終末シュワン細胞または星形シュワン様細胞をEGFP蛍光で同定した後,パルスレーザー(出力波長830 nm)でCa2+濃度依存的蛍光強度画像を高速タイムラプス記録しながら,ATP受容体P2Y2作動薬UTP 50μMを標本灌流液に加えたときの細胞応答を観察した。観察後,線毛マーカー アセチル化チュブリンの免疫染色を行い,Ca2+画像記録細胞を共焦点顕微鏡で立体再構築した。 実験2.実験1と同じ光学系を用い,Na+感受性蛍光色素SBFIを負荷した標本に1 mMグルタミン酸の灌流刺激を与えたときのグリア細胞のNa+濃度依存的蛍光強度画像のタイムラプス記録を試みた。 実験1で,終末シュワン細胞は一次線毛を欠き,P2Y2活性化に基づくCa信号がグリア薄板の出る細胞極から反対極へと伝播したのに対し,星形シュワン様細胞では,核陥凹部を占める中心体から線毛が出ており,刺激に応じたCa2+濃度上昇は まず核陥凹部と細胞膜直下の細胞質に速やかに広がり 少し遅れて核に及んだ。星形シュワン様細胞に特異な信号生成・伝播様式と線毛との関係を精査する必要がある。 実験2では,前年度までの蛍光顕微鏡のSBFI蛍光比画像観察でグルタミン酸刺激時にみられた髄鞘形成シュワン細胞の細胞内Na+濃度上昇の再現を試みたが, 解析に十分な蛍光強度の画像が得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は 観察目的細胞の画像記録頻度向上とNa+画像の信号対ノイズ比改善を期待して,グリア細胞同定のためのEGFP励起波長とCa2+またはNa+感受性プローブ励起波長を明瞭に区別して出力できる二光子励起光学系を採用し,(1)量子効率の優れたCa2+感受性プローブFura-2を応用した高速タイムラプス記録で終末シュワン細胞と星形シュワン様細胞の細胞内Ca信号生成・伝播過程を詳細にすること,(2)Fura-2と同様の励起・蛍光波長特性を示すものの量子効率の劣るNa+感受性プローブSBFIを応用した上記2種グリア細胞の観察・実験を計画していた。上記(1)に関しては,最新の高速二光子励起顕微鏡で画像記録条件に工夫を重ねることにより,良好なCa2+画像記録が安定して得られるようになり,新知見を学会発表したが,(2)に関してはまだ,再現性のある記録を得るところまで到達していない。
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今後の研究の推進方策 |
SBFIは現在利用できる最も有効な細胞内Na+濃度指示薬であり,これを用いてさらに明るい蛍光画像が得られるよう,細胞への負荷方法(負荷液の温度・濃度,界面活性剤の添加等)に工夫を加えて実験を行う必要がある。また,SBFIに似た性質をもつFura-2の使用経験から得られた二光子励起顕微鏡の設定条件に微調整を加え,記録画像の解像度を著しく損なわない範囲でSBFI蛍光検出感度を上げる試みも有効と期待される。一方,Fura-2蛍光強度画像記録の実験では,星形シュワン様細胞内のプリン作動性信号生成・伝播と一次線毛との関連を示す新しい所見が得られたので,刺激剤・遮断剤を用いた実験を分離標本や生体レベルで行い,その生理的意義を検証する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
トランスジェニックラットの分離槍型終末標本でATP受容体刺激実験を行うため,内因性ATPの効果を遮断する精製分解酵素,受容体特異的遮断剤などを購入する予定であったが,ラットの繁殖が計画通り進まず実験を行うことが出来ず,試薬の購入を控えていた。その後繁殖が順調にすすみ実験の準備が整ったので,未使用額はそれらの試薬購入に充てる予定である。
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