研究課題
典型的皮膚感覚装置 ラット頬ひげ毛包槍型終末は,受容体軸索を薄板突起で包む終末シュワン細胞と,一次線毛をもち自由突起を放射する星形シュワン様細胞をグリアとして随伴する。2種細胞内Ca2+濃度とNa+濃度の刺激に応じた変動と,その意義を明らかにするため,遺伝子改変ラットTg[S100b-EGFP]から分離した槍型終末を観察材料とし,以下の実験1--3を行った。実験1.分離標本に蛍光性Ca2+指示薬Fura-2を負荷して観察チャンバーに載せ,高速二光子励起顕微鏡でEGFP蛍光を発するグリア細胞を同定後,標本灌流液にP2Y2受容体作動薬UTP を加えて刺激したときの細胞応答をタイムラプス画像(コマ間隔50 msec)として記録。実験2.分離標本をそのまま観察チャンバーに載せ,UTP存在または非存在下に37℃で60分培養後,直ちにホルマリン固定。活性型(リン酸化)細胞外シグナル調節キナーゼ1/2(ERK)の免疫組織化学を行い,2種グリア細胞の陽性率をしらべた。実験3. Na2+指示薬SBFIを負荷した分離標本を実験1の光学系で観察し,グルタミン酸灌流刺激を与えたときのグリア応答をタイムラプス記録。星形シュワン様細胞のP2Y2を介したCa応答は,線毛基部を含む中心細胞質で核より約50 msec先行し,この特異な信号伝播様式は時間間隔をおいた反復刺激で再現された。60分間UTP刺激した星形シュワン様細胞の活性型ERK免疫染色陽性率は刺激しない場合に比べ有意に髙いのに対し,終末シュワン細胞では変化が検出されず,前者の細胞種でだけP2Y2受容体がERK活性化を介し細胞増殖・分化・遊走などに関わる可能性が示唆された。Na+画像解析では,終末シュワン細胞の薄板突起と受容体軸索が光学切片上で明瞭に区別されたものの,レーザー照射による自然退色が強く,刺激に応じた変化はとらえられなかった。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度は,前年度までに二光子励起顕微鏡で観察された星形シュワン様細胞内Ca信号生成,伝播過程を精査し,その生理学的意義を探ることと,皮膚感覚装置グリア鞘のより鮮明なNa+画像を捕らえることをめざし,(1)同光学系を用いた問題細胞Ca信号時空特徴のさらなる解析,(2)P2Y2受容体活性化の下流細胞内信号系関連分子候補ERKの活性化状態の免疫組織化学的評価,(3)Na+指示薬負荷効率を高める界面活性剤の選定と適正な添加濃度の検討,を計画していた。上記(1)と(2)に関しては星形シュワン様細胞Ca信号の時空特徴が繰り返し刺激で再現される傾向を確認し,これがERKを活性化できることを示し,その成果の一部を学会発表したが,(3)に関しては,負荷効率を高め観察対象物の区別できる画像を取得したものの,刺激に対する応答を捕らえるまでには至っていない。
一般に,刺激に応じた細胞内Na+濃度変動は比較的軽微であり,その画像化には,他の神経細胞などで試みられているように,より高濃度のNa+指示薬SBFIを微小ガラス管で直接細胞内投与する方法が有効と期待される。一方,Ca2+指示薬Fura-2の蛍光強度画像記録と分離標本レベルでの刺激剤投与実験では,星形シュワン様細胞内のUTP作動性信号生成・伝播と一次線毛との関係を確かめ,その下流の細胞内信号系への特異な連携を示す新たな知見が得られたので,生体レベルでの刺激剤・遮断剤投与実験を行って生理的意義を検証する計画である。
令和2年3月,新型コロナウイルスの影響により,参加を予定していた日本解剖学会全国学術集会の宇部市での開催が中止され,学会誌上での抄録発表をもってこれに代えることとなった。研究遂行上学会参加による意見交換・情報収集が不可欠なため,令和3年3月に開催される次回同学会に参加し,今まで得られた研究成果に最新のデータを加えて発表し,意見交換を行う予定である。
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Nat Commun
巻: 11 ページ: 234
10.1038/s41467-019-13883-y
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