研究課題/領域番号 |
17K08505
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
渡部 剛 旭川医科大学, 医学部, 教授 (80220903)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | GnRH誘導体 / 分泌顆粒形成 / 下垂体前葉 / 性腺刺激ホルモン産生細胞 / クリノファジー / 曲精細管上皮 / 精子形成 / 電子顕微鏡観察 |
研究実績の概要 |
内分泌細胞の分泌顆粒が細胞内で陳旧化するとクリノファジーという過程で分解処理されると考えられているが、これまで適切な解析実験系がなかったため、その詳細については不明の点が多い。そこで本研究では、下垂体前葉のLH/FSH産生細胞に対するGnRHアゴニストとアンタゴニストの作用の差に着目して余剰の分泌顆粒が生じる動物実験系を確立し、細胞内で陳旧化した分泌顆粒の特徴や運命を明らかにしようとしている。 平成29年度には、まず、雄ラットの背部皮下にGnRHアゴニストあるいはアンタゴニストの徐放性製剤を投与したのち、様々な時間経過で下垂体組織を採取し、生化学的解析と形態学的解析のための標本を系統的に作成した。同時に、この実験系の妥当性を検証するために、血漿と性腺刺激ホルモンの標的臓器である精巣組織も採取した。得られた血漿中のLH濃度の経時的推移をELISA法で解析したところ、GnRHアゴニスト持続投与群では投与直後に一過性の血中LH濃度上昇が見られ、その後は28日目まで低値に維持された。一方、GnRHアンタゴニスト持続投与群では投与直後から28日目まで持続的に測定限界以下の低値に維持され、投与直後のホルモン大量分泌は認められなかった。このLH濃度の推移と呼応して精巣重量も減少したが、両実験群で変化のパターンが異なったため、精巣組織の経時的変化を比較した。その結果、GnRHアゴニスト投与群では投与開始直後の一過性のホルモン大量分泌の時期に一致して、曲精細管上皮から大量の精子細胞が管腔内に剥落し、曲精細管が急速に萎縮していた。一方、GnRHアゴニスト持続投与群では投与直後は明らかな変化は認められず、投与開始後7日目以降から徐々に萎縮性の変化が生じることが明らかになった。この曲精細管に対するGnRH誘導体の影響の差異については、研究発表欄に記載した2つの学術集会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で初年度(平成29年度)に予定していたGnRH誘導体持続投与による動物実験モデルの確立は完了し、系統的な血漿サンプルや組織標本採取(下垂体及び精巣)も順調に行われた。このサンプル・標本を用いて、平成29年度にはまず、今回確立したGnRH誘導体持続投与実験系の有効性・妥当性を評価するために、性腺刺激ホルモン血中濃度測定および精巣における精子形成過程の変化を解析した。この結果、曲精細管上皮組織に対するGnRHアゴニストとアンタゴニストの影響の差異に関して予期せぬ新知見を得たため、その知見を学会発表や論文で報告するために追加・補足の実験を行った。この成果は、既に日本解剖学会の学術集会で発表し、現在論文としてまとめているところである。このような状況を踏まえて、本研究は計画通り順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画で予定していた、下垂体前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞の分泌顆粒形成に対するGnRHアゴニストとアンタゴニストの影響の差異については、計画通り平成30年度には電子顕微鏡観察や形態計測法による解析を中心に進めていく予定である。また、平成29年度に予期せぬ形で得られた精巣曲精細管上皮に関する新知見については、現在までの知見を論文として発表するとともに、上記の下垂体前葉細胞の解析と並行して追加の解析(特にGnRH誘導体の効果が切れた後の精子形成回復過程の解析)を進め、この主題のさらなる発展を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に予定していた動物実験系の確立と系統的な下垂体組織標本の作成が予想以上に順調に実施できたため、幸いなことに当初懸念していた至適条件を決定するための試行錯誤が不要になり、支出額が予算計上額よりやや少なくて済んだ。この結果、次年度以降に繰り越すことができた助成金は、今後行う下垂体組織標本の形態学的解析及び生化学的解析の充実に充てる予定である。
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