研究課題/領域番号 |
17K08510
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
井関 尚一 金沢大学, 医学系, 協力研究員 (50167251)
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研究分担者 |
仲田 浩規 金沢大学, 医学系, 講師 (80638304)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 顎下腺 / 導管系 / 細胞分化 / 性差 / ホルモン / マウス |
研究実績の概要 |
マウス顎下腺の生後発達において発現に性差の見られる遺伝子産物の研究を継続した。まず、セリンプロテアーゼ阻害物質であるSerpinb6aについて、その遺伝子と蛋白質が雄の顎下腺で優位に発現すること、導管系のうち雄で発達する顆粒性導管の細胞に蛋白質が局在することを示した。またセリンプロテアーゼの一種であり、顆粒性導管細胞の顆粒に存在するカリクレイン1関連ペプチダーゼb26(Klk1b26)がSerpinb6aと特異的に結合することがわかり、Serpinb6aが顆粒性導管細胞をカリクレインから保護していることが示唆された(論文1)。次に、セカンドメッセンジャーのcAMPとcGMPを分解する酵素であるphosphodiesterase 2A (PDE2A)について同様な解析を行い、PDE2Aが雌の顎下腺で優位に発現すること、蛋白質は腺房細胞および導管系のうち介在部および線状部導管の細胞に局在するが、顆粒性導管細胞では非常に少ないことを示した。またcAMPとcGMPの標的であるprotein kinase AとGの発現も同様に顆粒性導管細胞で非常に弱いことがわかり、雄で発達する顆粒性導管ではシグナル伝達へのサイクリックヌクレオチドの関与が低いことが示唆された(論文3)。また、マウス顎下腺の生後発達で見られる2種類の性差、すなわち雄における顆粒性導管細胞(NGF陽性)の優位な分化および顆粒性介在部細胞(SMGC陽性)の早期の消失におけるアンドロゲンおよび甲状腺ホルモンの役割を調べるため、正常およびアンドロゲン受容体欠損マウスに両ホルモンを投与して各細胞数を計測した。その結果、顆粒性導管細胞の性差はアンドロゲンと甲状腺ホルモンに依存するが、顆粒性介在部細胞の性差はアンドロゲンのみに依存することがわかり、両者は異なる分子メカニズムによることが示唆された(論文2)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、マウスの誕生時に見られる2種類の導管系前駆細胞、すなわちSMGCで標識される細胞とK5で標識される細胞について遺伝子改変動物を作成し、生後発達における分化の道筋すなわち細胞系譜を調べることになっていた。しかし予算、時間および人員の制約から、まずSMGC標識前駆細胞の研究に対象を絞ることにした。また計画ではSMGCのプロモータの下流に蛍光標識遺伝子および条件的致死遺伝子を導入したノックインマウスを作成することとしていたが、まず技術的により容易なSMGCノックアウトマウスを作成することにし、金沢大学の実験動物施設との共同研究で進めてきた。平成30年4月20日現在でノックアウトマウス作成がほぼ完成しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今回作成したSMGCノックアウトマウスの系統を維持しつつ、その唾液腺の組織形態、分泌機能、遺伝子発現などの表現型を解析して正常と比較し、顎下腺C蛋白質(SMGC)の生理学的役割、ならびにSMGCで標識される導管系前駆細胞の生理学的役割を研究する。SMGCノックアウトマウスを用いた研究の進行程度により、当初計画に記載したSMGCのプロモータ下流へのノックインマウスの作成に取り掛かるか否かを決定する。平成29年度に行ったような、マウス顎下腺の性差やホルモン依存性分化に関連した遺伝子産物の研究も平行して継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子改変動物の作成をひとまずSMGCノックアウトマウスに絞り、また初年度内には作成が完了しなかったため、予算使用計画に余裕が生まれた。次年度は作成したマウスの系統維持および表現型解析を行うため、繰り越した経費を動物飼育費や、抗体および遺伝子関連製品の購入に使用する。
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