研究課題/領域番号 |
17K08510
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
井関 尚一 金沢大学, 医学系, 協力研究員 (50167251)
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研究分担者 |
仲田 浩規 金沢大学, 医学系, 講師 (80638304)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 顎下腺 / 導管系 / 細胞分化 / 性差 / アンドロゲン / マウス |
研究実績の概要 |
マウス顎下腺の導管末端には出生時にまだ腺房がなく、暗い顆粒をもつ末端導管(TT)細胞と、明るい顆粒をもつ前腺房細胞がある。TT細胞は生後3週以降に次第に数が減少し、雄では生後5週以降は消失するが、雌では成獣に至るまで少数が介在部導管遠位端に残存する。TT細胞の生理的役割は不明であるが、特異的マーカーとして顎下腺C蛋白質(SMGC)が分泌顆粒中に存在する。本研究ではC57BL6系マウスでCRISPR-Cas9ゲノム編集を行い、SMGC遺伝子のエクソン3の一部に欠損を生じさせ、翻訳のフレームシフトによりSMGCの大部分が欠如するノックアウト(KO)マウスを作成した。KOマウスは特に異常なく生育し、成獣の顎下腺の形態は腺房および導管系とも正常であった。しかし出生から生後初期において、TT細胞のマーカーであるSMGCが欠如するのみならず、特徴的な顆粒をもつTT細胞そのものが存在しなかった。出生時の顎下腺の電顕観察では、TT細胞が欠如して未分化な導管細胞に置き換わっていた。一方、前腺房細胞は存在し、そこから正常な腺房が分化することが示唆された。すなわち、マウス顎下腺において、SMGCという分泌蛋白質の欠如によりTT細胞の分化そのものが起こらないこと、またSMGCおよびTT細胞の欠如は腺房および導管系の生後発達に影響しないことがわかった。KOマウスの顎下腺におけるSMGCのmRNA発現をin situ ハイブリダイゼーションで調べたところ、出生直後には末端導管に弱いながらもSMGCのmRNAが陽性の細胞が存在するが、生後発達の間に徐々にその数と発現強度が減少することがわかった。またKOマウスで野生型マウスと比較して特定の遺伝子のmRNA発現の増減があるかどうかをマイクロアレイ解析により調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度までの研究で、生後の早い時期にマウス顎下腺で導管系の末端に存在するTT細胞の特異的マーカー蛋白質であるSMGCの産生が欠如するKOマウスを作成し、KOマウスの顎下腺において出生段階から特徴的な分泌顆粒をもつTT細胞が欠如することを見出した。そこでTT細胞およびSMGCの生理的役割を調べるため、野生型マウスとKOマウスの間で顎下腺のmRNA発現を網羅的に比較するマイクロアレイ解析を行うことにした。期間延長した令和2年度においてはTT細胞の数やSMGCの発現量が最も多い生後2週の顎下腺サンプルを用いて行ったが、マイクロアレイで検出された遺伝子の数はKOで野生型より発現が弱いものと強いものいずれも、ごくわずかしかなかった。これらの遺伝子についてmRNAや蛋白質の発現と局在を解析したところ、KOで発現が少ない遺伝子産物は期待に反してTT細胞に局在せず、またKOで発現が多い遺伝子産物の発現量はマイクロアレイ結果と一致せず、局在部位もはっきりしなかった。令和2年度はコロナ渦の影響もあって研究がそれ以上進まず、研究期間を令和3年度まで延長した。
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今後の研究の推進方策 |
作成したSMGCノックアウト(KO)マウスの系統を維持しつつ、以下のような研究を行う。 1) KOマウスと野生型マウスの顎下腺に発現する遺伝子を網羅的に比較するため、さらにマイクロアレイ法で解析する。今年度は生後2週のほか、雄と雌とでTT細胞の数やSMGC発現の差が最も大きい生後4週の顎下腺も用いる。KOで野生型より発現の少ない遺伝子産物がもしTT細胞に局在すれば、これをSMGC以外のTT細胞マーカーとして利用してさらにTT細胞の動態を調べる。例えばKOマウスの顎下腺において導管末端に本当にTT細胞が欠如しているのか、あるいは分泌顆粒が欠如するだけでTT細胞に相当する細胞が残っているのかが、新しいマーカーの発現の有無により明らかになると期待される。またKOで野生型より発現の多い遺伝子産物やそれが局在する細胞を解析すれば、TT細胞やSMGCの欠損が生後の顎下腺にどのような影響を及ぼすかが明らかになり、SMGCの生理的機能の解明につながると期待される。 2) 顎下腺におけるSMGCの機能を探究するため、顎下腺の総蛋白質を抗SMGC抗体で沈降して得られた産物に質量分析を行い、SMGCと結合している蛋白質を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は一度目のマイクロアレイ解析を行ったが期待された結果が出ず、コロナ渦の影響もあってそれ以上研究が進められなかったので、研究経費が残った。令和3年度においてはKOマウスを系統維持しつつさらにTT細胞の動態やSMGCの生理的機能を解析するため、繰り越した経費を動物飼育費、抗体など形態学的研究に関連した製品の購入、および遺伝子解析試薬など分子生物学的研究に関連した製品の購入に使用する。
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