研究課題
プロラクチノーマの形成に関与する下垂体前葉内で産生される生理活性物質を探索するため、①腫瘍形成の過程における下垂体前葉内の生理活性物質および受容体の発現調節の解析、②生理活性物質および受容体機能解析、を行った。これまでに、プロラクチノーマモデルラットを用い、プロラクチノーマ形成過程で発現変動する遺伝子をDNAマイクロアレイにより解析し、プロラクチノーマで著しく発現が変動する遺伝子を同定してきた。さらにその中で、生理活性物質および受容体遺伝子に着目し、免疫組織化学およびin situ hybridization法を用いてプロラクチン細胞で発現し、さらにプロラクチノーマになると発現が増加する遺伝子の同定に成功した。これらの結果をもとに、本年度は、同定した生理活性物質及び受容体の発現誘導及び機能の解析を行った。遺伝子発現量をリアルタイムPCR法、タンパク質量をウエスタンブロッティング法により解析したところ、生理活性物質、受容体ともにDES処理による下垂体前葉の過形成の段階から発現が増加することが分かった。興味深いことに、生理活性物質はプロラクチノーマになるほど発現が増加したが、受容体は発現量の増加が止まることが分かった。また、ラット下垂体前葉の初代培養細胞を用いて、同定した生理活性物質の作用を解析した。培養液中に合成ペプチドを添加し、受容体の細胞内シグナルをELISA法で検出した。その結果、合成ペプチドは濃度依存的に細胞内シグナルを活性化することが分かった。これらの結果から、本研究で同定した生理活性物質はプロラクチノーマで増加し、下垂体前葉内でオートクラインまたはパラクラインによりプロラクチン細胞の機能を活性化する可能性がある。
3: やや遅れている
本研究は、「下垂体前葉内で産生される生理活性物質を介した細胞間相互作用による細胞機能調節機構の破綻が腫瘍化の一因となる」という仮説を検証するため、3年間で次の3項目について研究を計画した。①腫瘍形成の過程における下垂体前葉内の生理活性物質および受容体の発現量の定量解析、②生理活性物質および受容体の形態学的同定、③同定した生理活性物質の作用(細胞増殖、細胞死、細胞分化、ホルモン合成・放出)の解析、を行う予定である。これまでの実験で、プロラクチノーマモデルラットで発現が変動する遺伝子をDNAマイクロアレイ解析およびリアルタイムPCR法を組合わせて効率的に抽出することができた。そして、免疫組織化学とin situ hybridization法による組織解析によりプロラクチノーマで増加する細胞増殖因子を同定することができ、計画していた①と②の実験をほぼ終了できた。③の機能解析も進め、下垂体前葉細胞を活性化するデータは得られた。しかし、細胞を用いた刺激条件の検討に時間を要し、ホルモン合成・放出や細胞増殖などの具体的な細胞機能への効果を示すまでには至らなかった。
これまでの研究で、プロラクチノーマモデルラットの解析からプロラクチノーマの形成過程で増加する生理活性物質とその受容体を同定することができた。さらに、下垂体前葉初代培養細胞を用いて、同定した生理活性物質が下垂体前葉細胞を刺激することが分かった。今後、同定した生理活性物質及び受容体の機能を解析し、プロラクチノーマ形成への関与を明らかにする。
計画していた機能解析実験の一部を遂行することができなった。そこで、残額は引き続き次年度の物品費に充てる。また、学会発表および論文発表の経費に使用する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 1件)
Histochemistry and Cell Biology
巻: - ページ: -
10.1007/s00418-020-01862-0
Cells Tissues Organs
巻: 207 ページ: 127~137
10.1159/000504359