本研究は、神経細胞のリソソームに発現するパーキンソン病の病因遺伝子の一つとして同定されたATP13A2のイオン輸送機構の全容、およびATP13A2のイオン輸送機能異常が関与する新規のパーキンソン病発症メカニズムを明らかにすることを目的としている。昨年度までの研究では、ATP13A2の酵素活性が反応溶液中のK+濃度に依存性、パーキンソン病患者において報告されている各種点変異体を作製し、A746T、R449Q変異体では発現レベルが、G533R、R980H変異体では酵素活性がそれぞれ減少することを見出した。本年度はATP13A2のリソソーム膜におけるK+輸送能について86Rb+を用いた検討を行った。あらかじめ86Rb+を細胞に取り込ませ、低濃度サポニンにより原形質膜の透過処理を行い、ATP依存的な86Rb+排出量を測定した。ATP13A2発現細胞では未発現細胞に比べて有意に排出レベルが増加し、この86Rb+排出量の増加はリソソーム阻害剤のバフィロマイシンにより阻害された。また、酵素活性を阻害するパーキンソン病関連変異体(G533R、R980H変異体)発現細胞では、86Rb+排出量が未発現細胞と同レベルまで減少した。他方、最近ATP13A2の機能にポリアミンが関与することが報告されたが、我々の実験系において、ポリアミン処理により大きなATP13A2活性上昇および86Rb+排出の増加は観察されなかった。以上の結果より、ATP13A2はリソソームにおいてK+排出ポンプとして機能しており、パーキンソン病においてはそのK+排出機能が抑制されていることが示唆された。
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