研究課題
細胞膜イノシトールリン脂質(ポリホスホイノシタイド(PPI))は、低分子GタンパクRabとともに細胞内小胞輸送を精妙に制御する。形質膜・細胞内小器官膜に局在するPPIの合成・分解酵素群は、PPIレベルの調節を介して小胞輸送を制御するが、代謝酵素分子の実体と局在は十分に明らかとなっていない。我々はこれまでにイノシトール環3位をリン酸化するPPI合成酵素 “クラスII型PI3キナーゼα酵素(PI3K-C2α)” が血管内皮において成長因子受容体内在化・その後のエンドソームへの輸送とシグナリングに必須であることを明らかにしてきた。本研究課題では、PI3K-C2αと連関して機能するPPI特異的な3位脱リン酸化酵素MTMRxを同定し、MTMRx全身性および臓器特異的ノックアウト(KO)マウスを作成した。MTMRx全身性KOマウスは肺発達・成熟の異常を呈し、出生直後に死亡する。本研究課題では、MTMRx-KOマウスの病態生理機構を探究して肺発達・成熟におけるMTMRxの役割を細胞・分子レベルで解明することを目的とした。当該年度において、エンドリソソーム・オートファジー系におけるMTMRxの機能的役割を明らかにするために、ヒト肺上皮細胞由来A549細胞(II型肺胞上皮'AECII'細胞モデル)も用いたin vitro解析を行った。その結果、MTMRxはA549細胞において後期エンドソームおよびオートファゴソームに存在し、PI(3)Pレベルを負に調節することによってエンドリソソーム・オートファジー機能を制御していることを明らかにした。また、この過程にMTMRxによる転写因子TFEBの核移行制御が関与することを同定した。これらのことから、我々が見出したMTMRxはエンドリソソーム・オートファジー系の重要な制御因子である可能性が非常に高いと判断された。
2: おおむね順調に進展している
当初研究課題申請時の計画通り、当該年度では主にin vitro細胞系を中心とした解析を行った。現在、得られたこれらの成果は原著論文として国際雑誌に投稿中である。
最終年度における研究計画は、当初の計画通りMTMRxノックアウトマウス由来のAECII細胞、線維芽細胞および内皮細胞を用いたエンドリソソーム・オートファジー系によるAECIIの細胞分化・増殖制御メカニズムを解析する。すでに、FACSを用いた細胞単離法は確立しており、現在種々の実験項目を順次進めている。これにより、MTMRxノックアウトマウスにおける肺発達・成熟障害がAECIIの細胞内クリアランス機構の破綻によるものであることが明確となり、MTMRxの生理機能の一端が確立される。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件)
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