研究課題
細胞膜イノシトールリン脂質(ホスホイノシタイド(PI))は、低分子GタンパクRabファミリーと共に、エンドサイトーシス、オートファジーなどの細胞内小胞輸送に必要である。形質膜・細胞内小器官膜に局在する3’-リン酸化PIの合成酵素(PI3Kなど)及び分解酵素(ホスファターゼ)はPIターンオーバーを駆動することによって小胞輸送に関与するが、代謝酵素分子の実体と局在は十分に明らかとなっていない。当該研究はクラスII型PI3Kによって産生されたPI(3)P、PI(3,4)P2の3’-ホスファターゼを探索し、14種からなるMyotubularinファミリーに属するMyotubularin-related protein-4 (MTMR4)に着目した。MTMR4がエンドリソソーム・オートファジー系のPI(3)Pレベルを負に調節するMTMRアイソフォーム”である可能性が高いと考え、ヒト肺上皮腺がん細胞A549を用いてMTMR4の細胞内局在および細胞機能を詳細に解析した。その結果、MTMR4は、分子内にPI(3)Pに結合するFYVEドメインを有し、主に後期エンドソーム及びオートファゴソームに局在していた。MTMR4ノックダウンにより、PI3P陽性小胞の出芽・融合プロセスが障害され、後期エンドソーム及びリソソーム数の減少、ならびにPI3P陽性初期エンドソーム及び後期エンドソームの肥大化が観察された。また飢餓状態のMTMR4ノックダウン細胞において、後期エンドソーム/オートファゴソームとリソソームとの融合が障害され、アンフィソーム及びオートリソソーム形成が著しく減弱した。更に飢餓ストレス応答転写因子・TFEBの核移行が阻害され、それに伴うリソソーム関連遺伝子群の発現抑制が見られた。これらの結果から、MTMR4はエンド-リソソーム及びオートファジー経路の機能に必須であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、2年目は主にIn vitro細胞モデルを利用した研究に取り組んだ。使用する細胞種として、1)KOマウス由来II型肺胞上皮(AECII)細胞、2)ヒト肺胞上皮由来A549細胞(RNA干渉法によるノックダウン実験)の2種を選択した。両細胞種ともに平行して検討を行ったが、2の実験系において有益な進展が見られたことから、こちらに主眼を置いて取り組んだ。当該年度に得られた知見を、1の系でも確認し、さらに推進していく必要がある。
ヒト肺上皮腺がんA549細胞モデルを用いたin vitro実験系において、MTMR4はエンドリソソーム・オートファジー系細胞内クリアランス制御に必須な3'-イノシトールリン脂質ホスファターゼであることが明らかとなった。最終年度はこの成果を踏まえて、当初の計画通り”AECII 細胞において、MTMR4欠損がひきおこすエンドリソソーム・オートファジー系機能異常が、AECII 細胞の分化・増殖異常及び間葉系細胞過形成をきたす機構”を明らかにする。既に樹立しているII型肺胞上皮特異的MTMR4コンディショナルKOマウスにおける肺胞形成異常およびブレオマイシン誘発肺線維化発症の機序を明確にすることを目標とする。そのために必須の実験手法は、KOマウス由来のII型肺胞上皮細胞を純度よくFACSソーティングにより単離・培養を行い、リソソーム・オートファジー機能に関わる転写因・TFEB の核移制御におけるMTMR4 の機能的役割を、i) GFP-TFEB 核移行イメージング、ii) リソソーム膜上でのmTOR リン酸化調節機序をWB および免疫染色により検討、iii) TFEBターゲット遺伝子(リソソーム・オートファジー関連遺伝群)の網羅的解析(DNA マイクロアレイ、qPCR 法)等を行い、リソソーム構築・分解酵素群発現、活性調節機構を解析する。すでに上記実験手技の多くは適切な条件検討を終わらせており、すぐに取りかかることが出来る。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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