研究課題
先ず、以前我々が報告したてんかん性脳症を引き起こすKCNB1(Kv2.1)新生突然変異体について、そのシナプス伝達への影響の検討に着手した。しかし、以前用いた電気穿孔法による変異体の神経への導入法は、本検討を進める上では導入効率(約30%)が十分でないことが判明し、続いてウイルスベクターを用いることも検討したが、導入効率を上げるための調整が難航したことから、現在連携研究者(浜松医大・医化学・才津教授)らにより、同変異を受精卵レベルで導入した遺伝子改変マウスの作成が進められており、それが成功すれば、次年度はそのマウスを用いて検討を進める予定である。次に、連携研究者(横浜市立大学・遺伝学・松本教授及び上記才津教授)らにより新たに同定された、脳低形成を伴う或る遺伝子変異について、その変異を導入した遺伝子改変マウスが作成され、本研究代表者が検討を行ったところ、変異体を発現した神経では、シナプス小胞内の興奮性神経伝達物質量が有意に減少していることが判明した。この成果について、現在論文投稿準備中である。その他、統合失調症や自閉症の関連遺伝子であるGad1のヘテロ欠損マウスについて、胎生期に母体ストレスを受けることにより、生後の大脳皮質前頭前野内での抑制性シナプス伝達が増強することが判明し、この成果の学会発表・論文発表を行った。現在さらに、その伝達を担う抑制性介在神経の胎生期前駆細胞の細胞膜興奮性制御機構の解明にも着手しており、成果の一部について学会発表を行った。また、別の統合失調症・自閉症関連遺伝子産物であるWNK3キナーゼの欠損マウスについて、大脳皮質前頭前野内の錐体神経細胞では内向き整流性K+電流の増加により細胞膜興奮性が低下していることが判明しており、その成果の学会発表も行った。
2: おおむね順調に進展している
KCNB1変異体の検討については、当初の計画よりも遅れているが、変異体導入効率を上げるための合理的な解決策を次々と提示し、問題解決に向けて着実に進んでいるといえる。その他の新規疾患原因遺伝子変異や統合失調症・自閉症関連遺伝子の機能解析については順調に進められ、学会発表・論文発表にこぎつけられていることから、全体としておおむね順調に進展しているといえる。
KCNB1変異体の検討については、遺伝子改変マウスが作成され次第、先ず正常型と変異のヘテロ接合型の胎仔を用いて神経培養系を作成し、変異のシナプス伝達への影響を検討する。さらに、その影響によるてんかん様神経発火活動の機序の解明に向けて、神経細胞内Ca2+濃度変化のライブセルイメージングを行い、多数の神経細胞の同期的発火活動の発生条件について検討する。Gad1ヘテロ欠損の母体ストレスの影響については、生後の抑制性介在神経そのものの細胞膜興奮性の変化がシナプス伝達に影響を与えていると考えられるため、その検討を進める。また、その抑制性介在神経の胎生期前駆細胞の細胞膜興奮性制御機構の解明についても力を入れる。WNK3欠損マウスについては、内向き整流性K+電流を担うチャネル分子の同定と、その分子のWNK3キナーゼ活性によるリン酸化の有無について検討する。
初年度に不要となった設備備品費が本年度に繰越された分について、本年度は当初の予定通り消耗品費や動物施設使用料、学会参加費等の支出に留まったため、繰越された分の多くが次年度に持ち越されることとなった。次年度の使用計画として、上記ライブセルイメージングを行うにあたり、これまで使用していた超高圧水銀ランプ光源ではノイズ成分が多く混入することが判明したため、LED光源を導入するための出費を計画している。
口演発表:秋田天平「イオンチャネル相互機能連関の生理機能と病態の探究」第2回 浜松医科大学第2回学内研究交流会(リトリート)2018年
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Frontiers in Cellular Neuroscience
巻: 12 ページ: 284
10.3389/fncel.2018.00284