研究課題/領域番号 |
17K08534
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
秋田 天平 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (00522202)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞膜興奮性 / KCNB1 / てんかん / 変異導入マウス / 招待総説 / イオンチャネル病 / 胎生期 / 神経前駆細胞 |
研究実績の概要 |
我々が以前報告した、てんかん性脳症を引き起こす電位依存性カリウムイオンチャネルKCNB1の新生突然変異について、本年度は同変異をヘテロ接合で導入した遺伝子改変マウスの作成に研究協力者(浜松医大・医化学・才津教授・青戸助教)が成功した。そこでそのマウスの交配により得られた、変異をヘテロ接合で有するマウス胎仔及び同腹の正常胎仔の大脳皮質を用いて、神経培養系をそれぞれ作成し調べたところ、変異を有する神経で刺激応答時の活動電位発火頻度の低下と、発火間欠期の細胞膜電位レベルの上昇が認められた。現在シナプス伝達への影響についても検討中である。今後変異をホモ接合で有する神経でも確認し、発火頻度低下にもかかわらず、てんかんを引き起こす機序について検討を進める。 さらに本年度の特記すべき実績として、1868年創刊の伝統ある生理学雑誌Pflugers Archiv - European Journal of Physiologyより招待総説執筆の依頼を受け、出版したことが挙げられる。「イオンチャネル病」特集号の一編として、神経細胞内塩素イオン(Cl-)濃度制御異常を病態の中心とするてんかん発症機序について、KCNB1等の様々なイオンチャネルの異常が関わりうることを議論した。原稿は査読者と編集者の双方から高評価を得て、2020年4月17日に出版された。 また、遺伝子変異は神経発達段階から影響を与える可能性があり、その細胞膜興奮性制御機構への影響を理解するための基礎研究の実績として、①大脳皮質抑制性介在神経の胎生期前駆細胞における、細胞膜興奮性を制御する2種類の新規膜電流成分の発見についての学会発表、②神経Cl-輸送体の生理機能と病態についての書籍中の一章として、胎生期大脳皮質発達過程における神経前駆細胞の移動時の輸送体の役割に関する議論を執筆したこと(2020年7月出版予定)等が挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
KCNB1変異の検討については、患者と同変異を導入した遺伝子改変マウスを用いた検討は当初の計画にはなく、そのマウスの作成に本年度初めて成功したことから、補助事業期間延長を申請し、承認された。その意味で当初の計画よりも研究の進行が遅れている。しかし、そのマウスを用いることにより、一層実際の患者に近い条件での検討が可能となることから、研究成果の意義が増すことは疑いなく、今後の展開が大いに期待される。その他、変異の発達段階への影響を見据えた基礎研究、及び新規疾患原因遺伝子変異や統合失調症・自閉症関連遺伝子の機能解析については順調に進められ、学会発表・論文発表にこぎつけられていることから、全体としておおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
KCNB1変異の影響について、変異が導入された神経で認められた発火頻度の低下と発火間欠期の細胞膜電位の上昇は、発火時の神経細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度及びCl-濃度双方の上昇をもたらすことが予想され、それぞれの濃度上昇が興奮性シナプス伝達の増強及び抑制性シナプス伝達の減弱を促すことにより、神経細胞群のてんかん様同期的周期的発火活動が誘起される可能性が考えられる。従って、今後は変異のシナプス伝達への影響を電気生理学的に確認するとともに、それらのイオンの感受性色素を神経細胞内に導入して濃度上昇の程度を評価することも検討する。また、神経細胞群全体の発火活動を、先ず培養系でCa2+感受性色素や膜電位感受性色素を用いたライブセルイメージングにより明瞭に観測し、その発火活動に対する各種Ca2+流入源及びCl-流入源阻害剤の効果を検討する。一方、変異導入マウス自体はヘテロ型・ホモ型ともに外見上の発育は正常で、人間の患者と異なり自発性てんかん発作は認められていない。マウスの脳構造が人間に比して単純であることが影響していると考えられるが、発作は無くとも安静時の発火活動に異常がある可能性や、てんかん誘発剤に対する感受性が上昇している可能性が考えられる。従って、個体マウスの脳波測定や、脳海馬スライス切片での細胞外局所場電位測定により記録される、安静時及びてんかん誘発剤投与後の発火活動への変異導入の効果、及びそれらに対するCa2+・Cl-流入阻害剤投与の効果についても評価する。 さらに、変異の神経発達段階への影響を理解するための基礎研究として、胎生脳抑制性介在神経前駆細胞での膜電流成分を担うイオンチャネル種の同定、そのイオンチャネルの神経発達における役割の解明、そしてチャネル活性を変化させうる因子の同定等についても、今後更に検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に不要となった設備備品費が年々繰越された分について、その一部を本年度は蛍光顕微鏡用LED光源導入費用に充て、有効活用している。残額については、変異導入マウスを用いた検討のために補助事業期間延長することを見据えて出費を見直したこと、またコロナウイルス感染拡大の影響で年度末の学会が全て中止となり旅費の出費が減少したことにより、次年度に繰越すこととした。次年度の使用計画としては、学会開催の見通しが立たないこともあり、消耗品費及びマウスの世話を手伝ってもらうための補助員の人件費として、ほぼ費やされる予定である。
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