研究課題
本研究では、島皮質における味覚情報処理の神経メカニズムを明らかにすることを目的にしており、味覚情報処理に関与する因子として、島皮質に発現している味覚関連受容体に着目している。ヒトの空腹時では、胃・腸管および脳におけるアナンダミドの血中濃度は高く、一方、満腹時では、血中濃度が低いことが知られている。島皮質ではCB1受容体が豊富に発現していることから、膜電位測光法を用い、内因性カンナビノイドであるアナンダミドの灌流投与により、島皮質ニューロン活動がどのような活動を示すかを検討した。不全顆粒島皮質(味覚野)と顆粒島皮質吻側部(自律神経関連領野のうちの胃腸領域)を含むラットスライス標本にアナンダミドを投与したところ、島皮質味覚野においてオシレーションが発生し、味覚野後部に隣接する島皮質胃腸関連領域へと伝播した。そして、両領野間の神経細胞集団の間に5 Hzで同期化した神経ネットワーク活動が生じていた。そうしたオシレーションが、CB1受容体抑制剤であるAM251によって消失したことから、CB1受容体を介してオシレーションが生じていることが明らかとなった。島皮質においては、calbindin陽性GABA細胞の軸索終末にCB1受容体が豊富に発現しており、その分布密度は、島皮質胃腸関連領域に比べて島皮質味覚野で高いことが示されている。このため、アナンダミド投与後、calbindin陽性GABA細胞の脱抑制によってオシレーションが引き起こされるものと考えられる。また、オレオイルエタノールアミドの投与によりCB1受容体の活性化により生じるオシレーションが消失することを明らかにした。こうしたオシレーションが、摂食行動の制御に深く関わっているものと示唆される。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、島皮質に発現している味覚関連受容体として、CB1受容体の機能的役割について検討した。島皮質に発現しているCB1受容体の活性化により、島皮質味覚野と自律機能関連領野胃腸領域の間にネットワーク活動が生じることから、島皮質における味覚情報処理において、CB1受容体が重要な役割を果たしているものと考えられる。味覚情報処理における神経メカニズムの一端を明らかにする確認することができたことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価できる。
近年の目覚しい分子生物学的手法の発展により、大脳皮質においてもうま味受容体(T1R1/T1R3)が発現していることが報告された。しかし、島皮質に発現するうま味受容体(T1R1/T1R3)の機能的役割は不明な点が多い。このため、次年度は、島皮質に発現している味覚関連受容体として、うま味受容体(T1R1/T1R3)に着目して、機能的役割について検討し、味覚情報処理に果たす役割を明らかにする。
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