本研究では、大脳皮質第一次味覚野(島皮質)における味覚情報処理の神経基盤を明らかにするため、島皮質に発現している味覚関連受容体(カプサイシン(TRPV1)受容体、カンナビノイド1型(CB1)受容体、うま味(T1R1/T1R3)受容体)の生理学的役割を検討した。島皮質味覚野に発現しているTRPV1受容体を活性化すると、味覚野の電気刺激によって生じた神経活動は、味覚野尾側に隣接する自律機能関連領野へと拡がり、両領野の神経細胞集団の間にシータリズム(4~8 Hz)で同期化した神経ネットワーク活動が形成された。このシータリズムの周期的神経活動は、島皮質の浅層と深層にある神経細胞が、それぞれ4Hzおよび8Hzで活動した結果もたらされることを明らかにした。また、島皮質味覚野に発現しているCB1受容体を活性化すると、島皮質味覚野においてオシレーションが発生し、味覚野尾側に隣接する島皮質胃腸関連領域へと拡がっていた。そして、両領野間の神経細胞集団の間に5 Hzで同期化した神経ネットワーク活動が生じることを観察した。さらに、島皮質に発現しているT1R1/T1R3の電気生理学的性質を検討したところ、T1R1/T1R3活性化後に生じる電位依存性カルシウムチャネルを介入したカルシウムの流入およびGタンパク質アルファサブユニットの活性化が、活動電位の発生に重要であることを見出した。これらの島皮質に発現している味覚関連受容体が活性化されると、隣接する島皮質自律神経関連領野へと興奮が拡がり、摂食行動や自律神経応答の調節に関わっている可能性が示唆された。
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