研究課題/領域番号 |
17K08539
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
白吉 安昭 鳥取大学, 医学部, 准教授 (90249946)
|
研究分担者 |
李 佩俐 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40464292)
池田 信人 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50620316)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 疾患iPS細胞 / 心室筋 / 洞結節ペースメーカ / イオンチャネル / QT延長症候群 / 蛍光タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、まず、先天性QT延長症候群タイプ6(LQTS6)の疾患iPS細胞株(LQTS6-iPS)を用いて、患者さん由来の洞結節ペースメーカ細胞と心室筋細胞を選択的に可視化できる改変LQTS6-iPS細胞株を樹立する。続いて、可視化した洞結節ペースメーカ細胞と心室筋細胞を分取し、解析することによって、LQTS6の病因・病態解析を目的としている。しかし、(1)可視化のための改変iPS細胞株の樹立に時間を要したこと、(2)一時的に、ヒト多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)からの心筋分化誘導の再現性と効率が低下したことなどから、改変iPS細胞株の樹立に手間取り、病因・病態解析ができなかった。そこで、研究期間を延長した本年度は、再び細胞株の樹立および心室筋やペースメーカ細胞の分取・解析を試みた。 ヒトiPS細胞株への遺伝子導入のためのゲノム編集法などの条件の改善を行い、HCN4(ペースメーカ細胞のマーカ遺伝子)の発現をEGFPで、MLC2v(心室筋細胞のマーカー遺伝子)の発現をmCherryによってモニターできるLQTS6-iPS細胞株の樹立に成功した。また、心筋分化誘導条件の再検討により、安定的に心筋を分化誘導できるようになった。樹立した細胞株から、HCN4陽性細胞としてペースメーカ細胞を、mCherry陽性細胞として心室筋細胞を分取できることが明らかとなった。ただ、コロナ禍で研究時間が制約され、また、研究協力者が自宅待機になるなど、選択的に分取したペースメーカ細胞・心室筋細胞などの解析を十分には行うことができず、各心筋細胞の解析およびコントロールとして必要な正常化LQTS6-iPS細胞株の樹立は、次年度に再延長することとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の課題であったLQTS6-iPS細胞株の樹立に成功した。これは、エレクトロポレーション機器の変更、使用する細胞数とDNA量の最適化によっていると考えている。具体的には、ペースメーカ細胞の可視化のために、HCN4-EGFP-BAC(Bacterial Artificial Chromosome)のセミノックイン株(Q13株)を樹立し、続いて、心室筋細胞の可視化のために、Q13株に、Mlc2v-mCherryをCRISPR/Cas9によるゲノム編集法によりノックインし2重改変LQTS6-iPS株(Q13-9株)を樹立した。また、心筋分化誘導においても、①細胞密度、ゼラチンコートなどの細胞の前処理、③CHIR99021に加えてIWP2の使用などの分化誘導試薬の検討などによって、かなり高効率で安定性の高い心筋分化誘導が可能となった。 これにより、心筋分化誘導後のQ13-9細胞株から、EGFPとmCherryを指標にセルソートすると、HCN4発現細胞をEGFP陽性細胞として、Mlc2v発現細胞をmCherry陽性細胞として選択的に分取でき、それぞれ洞結節ペースメーカ細胞および心室筋細胞を高純度に調整することに成功することができた。また、これまでの研究成果で示されているように、EGFPとmCherryの共陽性細胞の存在が確認できた。この細胞は、刺激伝導系細胞の可能性が示唆されていたので、マーカー遺伝子の発現を調べたところ、発現しているマーカーといないマーカーがあり、特定には至らなかった。 当初の計画では、分取したそれぞれの細胞の電気委生理学的解析を行う予定であった。心筋の分化誘導には、2~3か月を要するが、コロナ禍で断続的に心筋分化誘導が中断したこともあり、ペースメーカ細胞などの解析にまで到達できなかった。このため進捗評価として、やや遅れていると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究で用いた疾患iPS細胞株は、MiRP1イオンチャネルにM54T変異をもつLQTS6患者に由来する。このLQTS6患者でみられる QT延長と徐脈という病態が、どのサブタイプ心筋に起因するかを明らかにすることが本研究の最終目標である。 前年度に樹立した2重改変LQTS6-iPS細胞株を用いることによって、ペースメーカ細胞をEGFP陽性細胞として、心室筋細胞をmCherry陽性細胞として選択的に分取することができるようになった。そこで、①ゲノム編集技術を用いて、樹立した2重改変LQTS6-iPS株(Q13-9)におけるMiRP1のM54T変異を修復した細胞株を樹立する。②修復iPS細胞株とQ13-9株から、分化誘導したペースメーカ細胞および心室筋細胞について、パッチクラプ法によって電気生理学的特性を比較検討し、病気(LQTS6)を再現できるかどうか検証する。特に、③QT延長が心室筋細胞で、徐脈がペースメーカ細胞で観察できるかどうかを明らかにする。これにより、疾患iPS細胞株が病気モデルとして成り立ち、LQTS6の病因・病態を再現できるかどうかを明らかにする。 なお、本研究では、ペースメーカ細胞の分取には、HCN4の発現を指標として分取している。しかし、HCN4は、心臓の前駆細胞マーカーでもある。事実、HCN4陽性細胞には、ペースメーカ細胞以外にも前駆細胞的な細胞も含まれていることが、関連研究から明らかになりつつある。そこで、時間的な余裕があれば、ペースメーカ細胞の指標としてHCN4にくわえてShox2転写因子を導入し、より純度の高いペースメーカ細胞を対象とした研究にも着手したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、コロナ禍のため、研究時間に制約が生じ、また、共同研究者の修士課程の学生も、度々、自宅待機あるいは研究活動の短縮を要請され、計画通りには研究を進めることができず、消耗品経費を中心に、余剰金が出た。また、コロナ禍で学会等が、on line開催となり、予定していた出張費が無くなった。このため研究計画を再延長したことも有り、次年度へ、活動経費として90519円を引き継ぐこととした。 計画していた改変LQTS6-iPS細胞(HCN4の発現をEGFPで、Mlc2vの発現をmCherryで可視化できるQ13-9株)の樹立に成功したので、次年度は、Q13-9株を用いて、心筋を分化誘導し、EGFP(HCN4)陽性細胞としてペースメーカ細胞を、mCherry陽性細胞として心室筋細胞を分取する。これら分取したサブタイプ心筋細胞の電気生理学的特性をパッチクランプ法で解析し、心室筋細胞でQT延長、ペースメーカ細胞で徐脈というLQTS6患者の病態が再現できているか確認する。続いて、原因遺伝子MiRP1のM54T変異をゲノム編集法で修復し、病因がMiRP1遺伝子変異にあることを証明する。
|