研究課題/領域番号 |
17K08548
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
依田 昌樹 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (30464994)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 軟骨発生 / 間葉系細胞 / 軟骨分化 / 三次元解析 |
研究実績の概要 |
本研究は軟骨原基周囲に存在する間葉系細胞が産生する形態形成関連因子の分布を三次元的に解析し、軟骨原基の形態形成機構を解明することを目的とするものである。軟骨原基の形成は未分化な間葉系細胞の凝集が起点となるが、なぜ間葉系細胞が特定の場所・形に凝集するのか、周囲の間葉系細胞との境界面が出現するのかは明らかではない。 そこで平成29年度はこの境界面に発現する分子の探索のため、最初に生後3日のマウスを材料に、ツチ骨(哺乳動物において3つ存在する耳小骨のうちの1つ)および周囲に存在する間葉系細胞群を組織学的に解析した。ツチ骨は成獣では完全に空気中に露出しているが、生後3日ではツチ骨は周囲をゼリー状の間葉系細胞群と接している。これは、胎生期に生じた軟骨原基と周囲の間葉系細胞群との境界面が保存されている可能性があると考えられる。まず、ツチ骨の凍結切片を作成し免疫染色を行ったところ、ツチ骨を取り囲む多層の膜にPDGFRαが発現していることが明らかとなった。興味深いことに、その多層の膜のうち一番外側に存在する一層の膜のみSca-1が発現していることが示された。一方、周囲の間葉系細胞群ではPDGFRαはほぼ全ての細胞で発現が確認されたが、Sca-1は細胞群を形成する一番外側のツチ骨と接している細胞のみ発現していた。このことから、境界面を規定する因子としてSca-1が関与している可能性が示唆された。さらに、細胞分化の方向性を決定すると言われているNotchシグナルのリガンドの発現を調べたところ、リガンドであるJagged1とDll1はツチ骨を取り囲む多層の膜上に存在していたが、その発現パターンは異なっていた。一方、周囲の細胞群はJagged1がほぼ全ての細胞で発現しているのに対し、Dll1は一部の細胞のみ発現が確認された。これらの発現の違いが何によって生じているか現在検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成29年度は、ツチ骨と周囲を取り囲む間葉系細胞群に発現する間葉系幹細胞マーカー分子およびNotchシグナル分子をいくつか同定できたことはひとまずの前進と考えられた。しかしながら、内皮系マーカーなど他のマーカー分子の同定が遅れている。さらに、マウス胎児を材料としたホメオボックス遺伝子のin situハイブリダイゼーションなど来年度おける急務な重要課題を残した。一方で、今年度は間葉系細胞が産生する形態形成関連因子の三次元的な分布を明らかするための予備実験として、軟骨特異的に蛍光色素を発現するCol2/Tomatoマウスのツチ骨(生後6日)および周囲の間葉系細胞群を材料とし、シート型蛍光顕微鏡で三次元観察の検討も並行して行った。その結果、三次元的に細胞の分布を可視化することができた。さらに間葉系細胞群の一部がCol2発現細胞由来であるという興味深い結果が得られた。今後は上記のマーカー分子の免疫染色を行い三次元的な分布を明らかにしたい。また、Col2/Tomatoマウスから胎生13.5日の個体を採取しScaleSを用いて組織透明化の検討を行ったが、摘出時と透明化処理後の蛍光パターンが異なるという結果となり、透明化試薬の選択や処理時間などの検討課題が残った。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まず生後3日個体のツチ骨と周囲を取り囲む間葉系細胞群に発現する他のマーカー分子の同定を行う。次に得られたマーカー分子の発現が、実際に耳小骨周囲の間葉系細胞に発現しているかをマウス胎児(胎生11.5日から13.5日個体)の凍結切片を用いて組織学的に解析し候補分子を選定する。その後、ホールマウント免疫染色を行ったマウス胎児を材料にシート型蛍光顕微鏡を用いて三次元解析に応用する。一方、ホメオボックス遺伝子のin situハイブリダイゼーションは条件検討から行い、耳小骨軟骨原基の周囲に存在する間葉系細胞における遺伝子発現領域を視覚化し、間葉系細胞群のそれぞれのホメオボックス遺伝子群の支配領域の把握を行う。
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