研究実績の概要 |
昨年度までに、精製TRPM7を人工脂質二重膜に埋め込み、シングルチャネル電流の測定に成功している。最終年度は、酸化ストレスによるTRPM7チャネル活性の制御機構を検討した。これまでに、我々はTRPM7過剰発現細胞を用いたパッチクランプ実験により、TRPM7のチャネル活性が酸化ストレスによって抑制されることを明らかにしている[Inoue et al., 2014, Free Radical Biology and Medicine 72:257-266]。酸化ストレスによるTRPM7の抑制は、内在性TRPM7においても確認し報告した[Inoue et al., 2019, Physiological Reports 7:e14272]。TRPM7はキナーゼドメイン(M7KD)をもっている。M7KDをdeleteしたTRPM7のチャネルドメイン(M7CD)発現細胞を作製し、M7CDタンパク質を精製後、人工膜上でのチャネル活性をCBB法により測定したところ、全長TRPM7よりも大きなコンダクタンスのシングルチャネル電流が観察された。しかしながら、M7CDの細胞質Mg2+による抑制は、全長TRPM7に比べ著しく増強しているため、生理的細胞内Mg2+濃度存在下では、全長TRPM7よりも電流は小さい。すなわち、M7KDはM7CDの細胞質Mg2+感受性を減弱させることが示された。酸化ストレスはM7CDとM7KDの分子内相互作用を阻害することによって、チャネル電流を抑制すると考えられる。M7KDへの変異導入実験により、M7KDのzinc finger motifが、M7CDとの相互作用に重要であることが明らかになった。酸化ストレスでは、このzinc finger motif内のシステイン残基が酸化されることにより、M7CDとの相互作用が阻害されてチャネル活性が抑制されることが示唆された。
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