研究課題
これまでに、抗がん剤を作用させるとネクローシスを起こす細胞(マウス乳がんFM3A細胞F28-7株)とその細胞の形質の異なる細胞でアポトーシスを起こす細胞(F28-7-A株)を用いた研究から、ネクローシスとアポトーシスの切替えに関与する複数のマイクロRNA(microRNA, miRNA)を見出している。本研究は、がん細胞のネクローシスとアポトーシスの切替えに関与するmiRNAを同定し、その腫瘍生物学的な役割を明らかにすることで、がんの治療標的として応用可能なmiRNAを特定することを目的として行なっている。平成29年度は以下の研究を実施し成果を得た。(1)これまでに見出している細胞死制御性miRNAについて、そのmiRNA mimicまたはinhibitorをヒト大腸がん細胞HCT116に導入した際の制がん効果を調べた。(2)細胞死制御性miRNAと標的のmRNAとの結合を阻害する化合物を、miRNAと相互作用する化合物の公共データベースであるPsmirなどを用いて検索した。(3)研究(2)で検索の結果、見出した化合物について、miRNAとその標的mRNAとの結合阻害能を我々が構築しているin vitro miRNA/mRNA 結合評価系を用いて調べた。平成29年度は細胞死制御制miRNAとmRNAとの結合を阻害する化合物を見出せなかったが、miRNAとmRNAとの結合を促進させる化合物を見出した。(4)細胞死のモデル細胞を用いた研究から既に見出しているネクローシス制御遺伝子について、その発現制御に関係するmiRNAを検索し、各種データベースを用いて制がん標的としての可能性を調査した。
2: おおむね順調に進展している
当初、平成29年度に予定していた腫瘍モデルマウスを用いた細胞死制御性miRNAのmimicやinhibitorの制がん効果の評価については実施出来なかったが、培養ヒトがん細胞を用いた細胞死制御性miRNAの制がん効果を指標としたスクリーニングを行なった。また、平成30年度に予定していたmiRNA/mRNA阻害化合物のデータベース検索を行うと共に、見出した化合物のin vitro miRNA/mRNA結合評価系を用いたmiRNA/mRNA結合阻害能の評価を実施することが出来た。
平成30年度は、以下の研究を実施し、細胞死制御性miRNAが制がん標的に成り得るのか検討する。(1)各種培養ヒトがん細胞において、細胞死制御性miRNAのmimicまたはinhibitorの導入により、抗がん剤投与及び放射線照射による細胞死(ネクローシスまたはアポトーシス)切替え有無を調べる。また、培養ヒトがん細胞にmiRNA mimicまたはinhibitorを導入することで、がん細胞の増殖、老化、細胞死に与える影響を調べる。これらの研究から、制がん標的としての有効性を評価すると共に、細胞死制御性miRNAの腫瘍生物学的な役割を明らかにする。(2)研究(1)で制がん標的として有望なmiRNAについては、腫瘍モデルマウスを用いて、制がんmiRNAのmimic、あるいはinhibitorを局所または、全身投与し、制がん効果を調べる。この時、同時に腫瘍内の壊死巣を採取してネクローシスとアポトーシスの割合を調べる。本研究から、見出したmiRNAの制がん標的としての有効性を評価する。(3)研究(1)、(2)から見出したmiRNAと標的のmRNAとの結合を阻害する化合物を、miRNAと相互作用する化合物の公共データベースであるPsmirなどを用いて検索する。(4)研究(3)で検索の結果、見出した化合物について、miRNAとその標的mRNAとの結合阻害能を我々が構築しているin vitro miRNA/mRNA 結合評価系を用いて調べる。(5)細胞死のモデル細胞を用いて、ネクローシスを起こしている細胞とアポトーシスを起こしている細胞の培養液からエクソソームを回収して、細胞死における役割を調べる。本研究から、エクソソームによる細胞死制御の有無を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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