研究課題/領域番号 |
17K08551
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
若林 繁夫 大阪医科大学, 医学部, 非常勤講師 (70158583)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 細胞死 / Na+/H+交換輸送体 / rhoキナーゼ |
研究実績の概要 |
本研究は、人工多能性幹細胞(iPSCs)で特定の遺伝子をノックダウン(KD)あるいは逆に高発現したうえで、心筋細胞に分化誘導させ、機能解析を行うことにより、機能未知の遺伝子の新しい機能を発見することを目的とするものである。まず、私達がこれまで扱ってきた機能既知の遺伝子について調べ、この系がうまく動くかどうかを検討したのちに、新しい機能未知の遺伝子へと研究を進める予定であった。ところが研究は予期しない興味深い方向に進展した。細胞内pHと Na+濃度の調節を担う膜蛋白質Na+/H+交換輸送体(NHE1)をiPSCsに高発現すると細胞は死ぬことを発見した。2年目はこのNHE1による細胞死のメカニズムを解析した。その結果、NHE1の高発現により、rhoキナーゼ(ROCK)が異常に活性化され、著しい形態変化、膨潤、アクチン線維の異常形成をきたし、ネクロ―シスによって細胞が死ぬことが判明した。ROCK活性化はNHE1阻害剤や変異導入で抑制され、逆にTMAで人為的に細胞内pHを上昇させるだけでROCKは活性化された。また、NHE1高発現でROCKが細胞膜に集積することから、NHE1高発現による形質膜直下の局所pH上昇がROCKの異常な活性化を招き、細胞死をもたらすことが推定された。最も興味深いことは、NHE1による一連の現象はiPSCsを中内胚葉系の細胞に分化させると起きないことが判明した。現在、より簡単な方法でiPSCsを選択的に死滅させることができており、ガン化しやすいと言われているiPSCsを選択的に死滅除去する新しい方法論を提示できるかもしれない。(論文執筆中)(2017年Conbio生命科学系合同年会、2018年生化学会、2019年生理学会FAOPSで発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は、当初の予定とは大幅に異なった方向に進展した。研究1年目で遭遇した「NHE1をiPSCsに高発現すると細胞死が起こる」という思わぬ現象のメカニズムが明らかになってきた。一連の研究結果から得られた結論は、NHE1を高発現すると形質膜直下の局所pH上昇をもたらし、rhoキナーゼ・ROCKの著しい活性化が起こり、細胞の異常な形態変化、膨潤、細胞運動などにより、細胞死が起こることが結論された。そのような一連の反応はiPSCsから分化させた細胞では起こらなかった。この研究は、①ROCKの新しい活性化のメカニズムと②iPSCsの持つ特殊な細胞生理学的性質を明らかにした。さらに、現在より簡単な方法でiPSCsを選択的に死滅させることができており、ガン化しやすいと言われているiPSCsを選択的に死滅除去する新しい方法論を提示できるであろう。研究の方向性は当初の予定からはかなり逸脱したが、本研究はそのような観点において興味深いと思うので、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の前半に、2年目までの論文を発表する予定である。さらに、1年目で遭遇した別の予期せぬ結果、すなわち「iPSCsにおいてCa2+結合蛋白質であるCHP3をCRSPRiの手法でノックダウンすると心筋に分化しない」という件についてそのメカニズムに迫りたい。予備実験の結果として転写因子であるc-Jun/c-fosが関与していると思われるので、まずはその辺のシグナル系を追及する予定である。また、本研究の要である「機能未知の遺伝子」についても、いくつか遺伝子をピックアップしたので、iPSCsからの心筋分化の系を用いて解析していくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験結果の思わぬ展開により、当初の研究計画をかなり変更せざるを得なかった。その結果、分化した心筋細胞を用いた実験からiPS細胞そのものを用いる実験に切り替えたことにより使用額が少なくなった。しかし、次年度は学会発表や論文発表に関する費用がかかるものと思われるので、次年度により残せたのは結果論的にはよかった。
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