研究課題/領域番号 |
17K08553
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
武谷 三恵 久留米大学, 医学部, 助教 (30289433)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 精嚢 / 自動能 / 収縮 / 間質細胞 / 平滑筋 / ギャップ結合 / 細胞内カルシウムストア / 電位依存性L型カルシウムチャネル |
研究実績の概要 |
本研究では精嚢の粘膜依存性収縮の発生機構を明らかにするため、モルモットの摘出精嚢組織の形態と機能を解析している。前年度には蛍光Ca2+イメージング、細胞内電位記録、蛍光免疫染色を行い、精嚢粘膜に分布する二種類の自発活動発生細胞(①電気活動と非同期性のCa2+活動を不規則に発生する『(上皮)基底細胞』、②周期的な電気活動(スローウエーブ)と同期性のCa2+活動を発生する『上皮下同期性間質細胞:Subepithelial synchronous interstitial cell, SSIC』)を見出し、SSIC群の同期性活動に伴って直下の平滑筋が興奮収縮を発生する所見を得た。基底細胞、SSICのいずれの自発活動とも小胞体のCa2+放出・取込み機構およびCl-透過性に依存していた。 当該年度はこれら二種の細胞群と平滑筋との電気的結合の可能性を調べた。電子顕微鏡(FIB/SEM tomography)を用いた解析では、基底細胞とSSICは基底膜により明確に隔てられていた。精嚢組織中の1個の細胞内へ色素を注入した場合、基底細胞、SSIC、平滑筋細胞のいずれにおいても同種細胞間での色素拡散が容易に観察され、ギャップ結合(GJ)による細胞間連結の存在が示唆された。一方、SSICに注入された色素は基底細胞へは拡散しなかったが平滑筋細胞には拡散したことから、SSIC-平滑筋の異種細胞間でのGJによる連結が示唆された。ニフェジピン存在下ではSSICのスローウエーブと周期的なCa2+濃度上昇の振幅が強く抑制されたが、Ca2+活動の細胞間同期性は維持されていた。 以上より、SSICでは小胞体Ca2+ストア依存性の自発電気および同期性Ca2+活動がL型Ca2+チャネルを開口させて振幅の大きなスローウエーブを発生させ、このスローウエーブがGJを介して平滑筋に伝播し興奮収縮を誘発していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度までに遂行を予定していた2つの大目標について、主要な答えを得ることができた。すなわち、「精嚢粘膜内で自発活動発生細胞を探索し細胞種を同定する」に対しては、上皮基底細胞とSSICが見出され、「粘膜から筋層へのシグナル伝達機構を解明する」に対しては、SSICの自発電気活動がギャップ結合を介して平滑筋に伝播することにより収縮が誘発されることが示唆された。SSICはビメンチン陽性の上皮下間質細胞であるが、消化管ペースメーカーとは異なり、チロシンキナーゼ受容体c-Kitは発現していなかった。現在、これらの内容をまとめた論文を作成中である。さらに、その探索過程で得られた以下の①~③の所見から、粘膜から筋へのシグナル伝達機構の解明における重要な課題を具体的に見出すことができた。次年度には当初計画していた精嚢粘膜での伸展感受性機構の解明に加え、これらの課題に取り組む予定である。
課題①粘膜依存性収縮において、上皮細胞等から分泌される液性因子がSSICの自発活動もしくは平滑筋の応答に対して促進的に関与している可能性が示唆された。液性因子を同定するとともに、SSIC自身が自動能を有するか否かを検討する。 課題②SSICが、ペースメーカーとしてはこれまで未報告のPDGFR(血小板由来成長因子受容体)α陽性間質細胞である可能性が示唆された。PDGFRα陽性間質細胞の自発活動への寄与を検討する。 課題③ビメンチン陽性(一部PDGFRα陽性)間質細胞は、精嚢上皮下だけでなく筋層にも分布しており、上皮下のSSICに注入した色素は筋層内の間質細胞にも拡散した。しかし、SSICを含む粘膜を剥離した筋標本では、自発収縮は起こらず筋層内の間質細胞は同期性活動を発生しなかった。上皮下と筋層内の間質細胞では特性にどのような違いがあるか、さらには粘膜依存性収縮における筋層内間質細胞の役割についても明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
自発活動発生細胞のうち、平滑筋の興奮収縮を直接誘発していると考えられるSSICについて、①自発活動の発生機構を明らかにし、②細胞マーカーおよび発現している機能的分子の同定を行うことを、目標とする。 ①自発活動発生機構については、SSIC自身が自動能の起源であるのか、それとも他種細胞からの液性因子に依存するのか、精嚢組織標本や単離細胞を用いて検討する。予備実験で得られた結果から、液性因子の候補としてはGqシグナルを介するものを優先して調べる。液性因子の平滑筋の興奮性への直接的な影響についても検討したい。機械感受性チャネルとして知られるTRPチャネルやPiezoチャネル等の粘膜組織内発現についても調べる。 ②上皮下のSSICと筋層の間質細胞に対し、細胞マーカーおよび機能的分子の発現を比較する。現時点で積極的な検討を考えているのは、PDGFRα、Ca2+活性化Cl-チャネルとして知られるTMEM16AやTMEM16B、Ca2+活性化SK3チャネル、コネキシン、および①で明らかになった液性因子の受容体である。 ①、②を通じて鍵となる分子群とその分布を明らかにし、SSICを含む粘膜組織内の細胞と筋層内の間質細胞が粘膜依存性の自発収縮発生機構にどのように関与しているのか、詳細な解明に繋げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:前年度の予備実験から粘膜依存性収縮を発生させる液性因子の有力候補としてATP(P2Y受容体を介して作用)が浮上したため、当該年度ではその詳細を検討するのに多くの時間を費やした。この際、相当数のP2X、P2Y受容体作動薬と拮抗薬、およびP2Y1抗体は既存のものを使用したため、当初計画していたほど多種類の試薬・抗体を購入するには至らなかった。これら一連の実験では、主にGq共役型のP2Y1シグナルを外因性に刺激するとSSIC-平滑筋組織の自発収縮発生頻度が上昇したが、内因性P2Yシグナルを遮断しても収縮は維持されていた。以上よりP2Yシグナルは粘膜依存性収縮発生に必須ではないことが示唆され、これに関する論文作成も進めている。 使用計画:SSICの自発活動発生機構と粘膜から平滑筋へのシグナル伝達機構を解明するため、実験動物、試薬、抗体を購入する。また、得られた成果を学会や論文として発表する予定である。
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備考 |
久留米大学医学部 生理学講座統合自律機能部門 http://www.med.kurume-u.ac.jp/med/physiol2/
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