研究課題/領域番号 |
17K08559
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構村山医療センター(臨床研究部) |
研究代表者 |
岡田 泰昌 独立行政法人国立病院機構村山医療センター(臨床研究部), 電気生理学研究室, 室長 (80160688)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 呼吸リズム / グリア細胞 / アストロサイト / 脳幹 / 延髄 / 呼吸調節 / カルシウムイメージング / 摘出脳幹脊髄標本 |
研究実績の概要 |
我々の脳は生命維持のため無意識下にも自律的な呼吸リズムの形成を行っているが、呼吸リズムの形成機序は解明されていない。研究代表者らは、先行研究で延髄スライス標本において、吸息性ニューロンに先行して呼吸活動を呈する呼吸性アストロサイトを発見した。そこで、本研究では、スライス標本に比し広範囲の脳幹部ネットワーク機構が温存されている標本における呼吸リズム形成でのアストロサイトの役割を検討した。
平成30年度には引き続き、新生ラット摘出脳幹脊髄標本にカルシウムイメージング法を応用し、細胞活動計測を行った。標本吻側断面で、呼吸リズム形成で重要とされるpreBotzinger Complex(preBotC)領域に蛍光カルシウム指示色素Oregon Greenを注入し、そこへレーザー光(488 nm)を照射し、蛍光(507 nm)を高感度CCDカメラを装着した共焦点顕微鏡を用いて記録した。実験では、標準の人工脳脊髄液で標本を灌流しつつ細胞活動の計測を行った後、TTXを加えた人工脳脊髄液での灌流によるシナプス伝達遮断下でも計測を行った。さらに、アストロサイト活動を抑える薬剤・arundic acidを投与した際の吸息性ニューロン活動および呼吸神経出力の変化も解析した。
その結果、延髄preBotC領域において、呼吸リズムと同期した活動を呈するニューロンおよびアストロサイトを見出した。そして、TTX存在下では、ニューロン活動は消失するが、アストロサイトの活動は維持されることが確認され、アストロサイトの活動はニューロン活動に依存しない自律性のものであることが示された。また、アストロサイト活動を抑える薬剤・arundic acidを投与した際には、呼吸神経出力の抑制が認められ、ネットワーク機構が高度に温存された摘出脳幹脊髄標本において、延髄アストロサイトは呼吸リズム形成に関与していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、カルシウムイメージング法で計測した細胞を、ニューロンとアストロサイトとに分類するための方法の確立にやや時間を要した。しかし、この問題は、文献に基づき、標準の計測後に、標本を低カリウム液で灌流することにより、細胞をニューロンとアストロサイトとに分類するという方法の妥当性を確認しえたので、解決済みである。その結果、研究は、おおむね順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
呼吸性アストロサイトの周期性自発活動が、呼吸リズム形成に関わる詳細なメカニズムを明らかにする。そのため、以下の実験を行う。 (1) アストロサイト活動の薬理学的抑制・刺激に伴う吸息性ニューロン活動の変化: arundic acid以外のアストロサイト活動を抑える薬剤(fluoroacetate, aminoadipic acid, L-methionine sulfoximineなど)、アストロサイトのカルシウムオシレーションを抑えると予想されるIP3受容体阻害剤(2-APBなど)、およびアストロサイト活動を刺激する薬剤(t-ACPD)を投与した際の吸息性ニューロン活動および呼吸神経出力の変化を解析する。これら実験によって、吸息性神経出力形成におけるアストロサイトの機能的役割を明らかにする。 (2) グリオトランスミッターの受容体抑制に伴う吸息性ニューロン活動の変化: 呼吸性アストロサイトからグリオトランスミッターとして周期的に分泌され、吸息性ニューロンを興奮させている可能性のあるグルタミン酸、ATPについて、それらの受容体拮抗薬(CNQX, D-AP5, MK-801, PPADSなど)を投与した際の呼吸神経出力、および吸息性ニューロン活動を、前吸息性アストロサイト活動とあわせて、カルシウムイメージング法により解析する。 (3) 実験結果の総合的評価に基づく呼吸リズム形成理論の確立: 上記の解析結果を総合的に検討し、preBotCにおける呼吸リズム形成機構について、呼吸性アストロサイトの周期的自発活動の発生機序、それが呼吸性ニューロンと同期する機序の解明を、呼吸性アストロサイトから放出されるグリオトランスミッターの同定とともに行なう。これにより、preBotCにおいてグリア細胞が関与した呼吸リズム形成の詳細な機序を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
工夫を凝らすことにより、経費を節約して使うことができ、次年度使用額が生じた。この次年度使用額は、次年度の実験の消耗品代および成果発表のための国際学会への参加費として有効に使用する予定である。
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