微小磁場(Hypomagnetic field:HMF)は1マイクロテスラ程度の弱い直流磁場を指す.地球から離れた宇宙空間や月面ではHMF条件が常に実現されている.人間が地球外で活動する機会の激増を背景にHMFがヒトの健康に与える影響に興味がもたれるようになっている.私は培養細胞(株化マクロファージ)の生理にHMFがどのように影響するかに興味を持って研究を行った.HMF条件は,細胞培養用のCO2インキュベータをパーマロイの製ケース(仙台市交通局より寄贈)内に収めて実現した.生理的応答として,ミトコンドリア膜電位,ミトコンドリア内と原形質内のスーパーオキシドアニオン(O2-)産生,細胞内ATP レベル,ネクローシス並びに細胞培養ディッシュ中の細胞密度を調べた.HMF(7.4マイクロテスラ)とコイルにより発生させた鉛直下向きの46マイクロテスラの直流磁場中で24時間と48時間培養後にこれらの応答を調べて比較した.その結果,ミトコンドリア膜電位のみが24時間後に減少傾向(0.1 > p > 0.05),さらに48時間後に有意な減少(0.05 > p)を示した.細胞密度は48時間後に減少傾向を示した.これらの結果は先行研究と矛盾しない.そのほかの指標はいずれの時間でも差がなかった(p > 0.1).当初ミトコンドリアの膜電位低下がATPレベル低下を引き起こすこと,ATPレベル低下はさらにネクローシス増加を経て細胞密度減少を引き起こすと考えていたが,そうではなかった.また,実験条件下ではO2-産生がミトコンドリアで起こるため,膜電位低下はO2-産生を源弱すると予想したがそれも正しくなかった.従ってHMF環境はミトコンドリア膜電位発生と細胞増殖に独立に生理的応答を引き起こし,どこか一つの作用点を通じて因果関係的に細胞に影響する可能性はないと結論した.
|