研究課題/領域番号 |
17K08569
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
中畑 泰和 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (50390810)
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研究分担者 |
別所 康全 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (70261253)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞老化 / 概日時計 / NAD+ / NAMPT |
研究実績の概要 |
私たちのグループは、概日時計とNAD+代謝制御に注目し、分子レベルでの老化進行のメカニズム解明を目指している。本研究課題では、概日時計およびNAD+代謝の細胞老化進行への影響を明らかにすることを研究目的としている。 まず、概日時計が完全に消失している遺伝子欠損マウスであるBmal1欠損マウス胚由来初代線維芽細胞を用いて細胞老化進行への概日時計の影響の有無を検証した。その結果、総細胞分裂回数をはじめとする細胞老化に対する検証したすべての指標において、野生型とBmal1欠損細胞で有意な差は見られなかった。個体レベルでBmal1欠損マウスは、野生型マウスに比べて早期から老化細胞が組織内に蓄積することが報告されている。これらの結果より、概日時計は、細胞自律的な細胞老化へは関与せず、細胞非自律的な細胞老化へ関与する可能性が示唆された。本研究は当該年度に国際誌Chronobiology Internationalに受理された。 一方、NAD+代謝による細胞老化への影響は、私たちがこれまでに作成した細胞内NAD+濃度が恒常的に上昇しているNampt高発現マウス胚由来の初代線維芽細胞を用いた結果より、NAMPT/NAD+増加量依存的に細胞老化開始が遅延することを明らかにしていた。本年度、NAD+依存性酵素SIRT1の脱アセチル化活性、Sod2およびcatalase遺伝子発現の増加による酸化ストレス抵抗性の上昇が細胞老化遅延を惹起する分子機構のひとつとして明らかにした。本研究は当該年度に国際誌Genes to Cellsに発表した。 また次年度以降の研究のため、フローサイトメトリーを用いた高純度な老化細胞集団の分取にも成功しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の基礎のひとつとなった研究である、Nampt高発現マウス胚由来初代線維芽細胞が細胞老化遅延を示す知見を国際誌に原著論文として発表するに至った。また、平成29年度計画として予定していた「概日時計による細胞老化進行への影響」は、順調に進み、概日時計は細胞自律的な細胞老化進行に影響しないという結論を得ることができ、国際誌に原著論文として発表するに至った。以上より当該年度は、ほぼ順調に研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
NAMPT/NAD+量増加が細胞老化進行を遅らせることを解明したので、次年度以降は、複製老化期に入りつつあるほぼ細胞分裂が停止した細胞の培地にNAD+もしくはNMN(NAD+前駆体)を添加し、細胞内NAD+量を増殖期の細胞と同程度まで上昇させると細胞分裂が再開するか否かを検証する。評価方法は、BrdU取り込みによる細胞分裂能や細胞死の評価などを行う。予備的知見として、NAD+添加で総細胞数が増加することを確認しているので、NAD+添加で細胞分裂再開が確認できれば、さらに、細胞分裂を再開する細胞群の同定を行う。同一継代回数の老齢細胞群の中にも、完全に老化した細胞群と完全には老化していない細胞群が混在している。そこでこれら細胞群を細胞の大きさ(老化細胞は増殖可能細胞に比べて大きい)など複数の老化マーカーを基準にフローサイトメトリーにより分離したのち、NAD+添加実験を行う。これにより、老化細胞が若返る(細胞分裂の再開)のか、完全には老化していない細胞が若返るのかを明らかにする。 また、Bmal1欠損マウスを用いた個体レベルでの細胞老化に対する概日時計の果たす役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究が予想外の発展を示したため、マウスを用いた新たな実験を追加する。このための研究試薬等を購入するため、平成30年度に繰り越した。 (使用計画)マウス維持費、マウスを用いた実験用試薬等の購入、および平成30年度に計画していた研究のための試薬等の購入に研究費を使用する。また、積極的に国内外の学会に参加し、研究成果を発表するために、旅費として研究費を使用する。
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