研究課題/領域番号 |
17K08571
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
冨田 淳 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 講師 (40432231)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 睡眠 / 中心複合体 / Protocerebral bridge / ドーパミン |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエの睡眠-覚醒制御に関わる中心複合体の神経回路について解析を行った。 中心複合体はPB (protocerebral bridge)、FB (fan-shaped body)、EB (ellipsoid body)、NO (noduli) という4つの領域から構成される脳構造である。我々はこれまでの研究でPBからFBとNOに投射するニューロン (PB-FB-NOニューロン) の活性化により、睡眠量が著しく減少すること、また、一部のPB介在ニューロンの活性化により、睡眠量が顕著に増加することを見出した。 本年度は、まずGRASP (GFP reconstitution across synaptic partners) 法を用いて、睡眠-覚醒制御に関わるPB-FB-NOニューロンとPB介在ニューロンの間のシナプス結合を検討したところ、PBにおいて再構成されたGFPシグナルが観察され、これら2つのニューロン間のシナプス結合が示唆された。PBにはT1とよばれるドーパミン (DA) ニューロンが投射することが知られている。T1 DAニューロン特異的に温度依存性イオンチャネルdTrpA1を発現させて活性化したところ、睡眠量が有意に減少した。また、GRASP法により睡眠-覚醒制御に関わるPB介在ニューロンとT1 DAニューロンとの間のシナプス結合が示唆された。PBにはドーパミンD2受容体Dop2Rが発現することが報告されており、PB介在ニューロンでDop2Rをノックダウンすると睡眠量が有意に増加した。以上の結果から、PB介在ニューロンは、睡眠を抑制するPB-FB-NOニューロンを抑制することで睡眠を促進し、T1 DAニューロンはD2受容体シグナルを介してPB介在ニューロンを抑制することで、結果的に睡眠を抑制することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、ショウジョウバエとマウスで共通するNMDA型グルタミン酸受容体による睡眠-覚醒制御機構の解明である。睡眠-覚醒制御の分子機構を解明するためには、それに関わる神経回路の同定が重要であるが、上述したように、本年度に行った研究により、睡眠-覚醒制御に関わる新たなPBの神経回路を示唆することができた。また、PBにはグルタミン酸作動性ニューロンの存在が示され、今回見出した神経回路に着目して睡眠-覚醒制御におけるNMDA受容体の機能解析ができる可能性が考えられた。以上の結果が得られたことから、研究の達成度については、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
睡眠-覚醒制御に関わる中心複合体PBの神経回路については、それを構成するPB-FB-NOニューロン、PB介在ニューロン、T1 ドーパミンニューロン間の機能的なつながりを、細胞内Ca2+やcAMPのイメージング手法を用いて調べる。また、キノコ体や中心複合体FBなどに存在する睡眠-覚醒制御に関わる他の神経回路との機能的・解剖学的な関係も調べる。睡眠-覚醒制御に関与するPBニューロン群で、NMDA受容体やその下流で働くと想定されるカルシニューリンをノックダウンし、睡眠量が変化することを示す。またPBに投射するグルタミン酸作動性ニューロンの中で、睡眠-覚醒制御に関わるニューロンの同定を試みる。
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