研究課題
ショウジョウバエの睡眠-覚醒を制御する中心複合体PB (protocerebral bridge) の神経回路について引き続き解析した。これまでの研究で、覚醒を促進するPB-FB-NOニューロン (PBから中心複合体の他の部位であるFBとNOに投射するニューロン) と、睡眠を促進するPB介在ニューロンを同定した。本年度はまず、これら2つのニューロンを活性化したハエの行動をビデオ観察し、赤外線を用いたDrosophila Activity Monitoring Systemで睡眠測定した場合と同様の結果が得られることを確認した。睡眠-覚醒制御に関わるPB-FB-NOニューロンとPB介在ニューロンは、どちらもコリン作動性ニューロンであることが示唆されていたが、これら2つのニューロンで小胞アセチルコリントランスポーター (VAChT) をノックダウンすると、睡眠量に有意な変化がみられた。昨年度の研究で、T1ドーパミンニューロンはD2受容体シグナルを介してPB介在ニューロンを抑制することで、覚醒を促進することが示唆された。そこで、PB介在ニューロンにCa2+センサーGCaMP6sを発現させたハエの摘出脳を用いて、PB介在ニューロンがドーパミンに反応するかどうかを調べた。ドーパミン投与によって、予想通りGCaMPシグナルの減少がみられたが、逆に一過的に増加する場合もあった。この反応性の違いについては、原因を調査中である。PBにはグルタミン酸作動性ニューロンも存在する。PB介在ニューロンでハエの睡眠-覚醒制御に関わるNMDA受容体やカルシニューリンをノックダウンしたところ、睡眠量は、カルシニューリンノックダウンでは有意に減少し、NMDA受容体ノックダウンでは減少傾向がみられ、PB介在ニューロンがグルタミン酸シグナルによっても調節され、睡眠-覚醒を制御する可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、ショウジョウバエとマウスで共通するNMDA型グルタミン酸受容体による睡眠-覚醒制御機構の解明である。睡眠-覚醒制御の分子機構を解明するためには、それに関わる神経回路の同定が重要である。本年度に行った研究により、睡眠-覚醒を制御する中心複合体PBの神経回路を構成するニューロンのうち、睡眠を促進するPB介在ニューロンが、ドーパミンシグナルに反応することをCa2+イメージング法により示すことができた。PBにはグルタミン酸作動性ニューロンが存在する。NMDA受容体の下流に位置し、ショウジョウバエの睡眠-覚醒制御に関わるカルシニューリンをPB介在ニューロンでノックダウンすると、睡眠量が有意に減少した。このことから、PB介在ニューロンがドーパミンシグナルだけでなくグルタミン酸シグナルによっても調節され、睡眠-覚醒を制御する可能性が示された。以上の結果が得られたことから、研究の達成度については、おおむね順調に進展していると評価した。
覚醒を促進するPB-FB-NOニューロンと睡眠を促進するPB介在ニューロンの機能的なつながりを、Ca2+イメージング法により調べる。この実験に用いるショウジョウバエ系統を現在準備中である。経シナプス的にニューロン間の接続を標識できる技術trans-Tango (Talay et al., 2017) を利用し、PB介在ニューロンに投射するニューロンを網羅的に探索する。標識されたニューロンについて、抗VGlut抗体による免疫染色を行い、PB介在ニューロンに入力するグルタミン酸作動性ニューロンの同定を試みる。T1ドーパミンニューロンは、闘争の制御に関わることが報告されている (Alekseyenko et al., 2013)。そこで、睡眠-覚醒を制御するPB神経回路が闘争の制御にも関わるのかどうかについても調べる。
本年度は、ショウジョウバエ系統の購入がなかったため、物品費が予定よりも少なく、次年度使用額が生じた。次年度使用額については、ショウジョウバエ系統の購入、トランスジェニックハエの作製、分子生物学試薬類の購入に使用する予定である。
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Sci. Rep.
巻: 9 ページ: 196
10.1038/s41598-018-37879-8
Biosemiotics
巻: 11 ページ: 65-83
10.1007/s12304-018-9316-0