研究課題/領域番号 |
17K08574
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
吉田 匡秀 自治医科大学, 医学部, 助教 (30533955)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | プロラクチン放出ペプチド / 社会的敗北ストレス / レジリエンス / うつ / 恐怖記憶 |
研究実績の概要 |
レジリエンスとはストレスを負荷された状態から、正常な状態に戻ろうとする復元力や回復力を示す。このレジリエンスが不充分だとうつ病や心的外傷後ストレス障害といったストレス関連精神神経障害を発症するという概念がある。臨床的にはこの妥当性は認知されているが、その分子基盤は判っていない。申請者はレジリエンスを担う候補因子としてプロラクチン放出ペプチド(PrRP)を見出した。 PrRP は脳の延髄孤束核、延髄腹外側部、視床下部背内側核の3 カ所に限局して発現する神経ペプチドである。またPrRPの受容体としてGPR10が同定されている。脳内におけるGPR10発現領域はよく判っていない。申請者はこれまでに、①社会的敗北ストレス負荷により延髄孤束核、延髄腹外側部、視床下部背内側核の3カ所のPrRP 産生ニューロンが活性化されること(未発表データ)、②PrRP 遺伝子欠損マウスに慢性の社会的ストレスを負荷すると、うつ様行動の一つである同種マウスに対する社会的探索意欲の減弱が起こること(未発表データ)、③PrRP 遺伝子欠損マウスは条件恐怖学習における恐怖記憶が増強すること(Yoshida らEndocrinoogy 2014)、④PrRP を視床下部背内側核に局所投与すると不安行動が減弱すること(未発表データ)を見出した。これらの結果はPrRP がストレス負荷状態からの回復を促進するレジリエンス亢進因子であることを示唆している。本研究ではPrRP/GPR10システムにはレジリエンス作用があるという仮説を検証する実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①独自に作製したPrRP産生細胞レポーターラットとアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いてPrRP産生ニューロンの軸索投射を明らかにする実験系の開発を行った。PrRPプロモーター制御下で緑色蛍光タンパク質を発現するBACトランスジェニックラットにおいて、蛍光タンパク質がPrRP産生細胞において特異的に発現することを確認した。AAV/Cre-DOGシステムを用いて、脳において緑色蛍光タンパク質依存的にCre活性が誘導される実験系を構築した。また、軸索に局在する赤色蛍光タンパク質を作成した。 ②CRISPR/Cas9システムを用いて独自に作製したPrRP受容体遺伝子欠損マウスのゲノムシークエンスを行い、フレームシフト変異が起こる2種類の遺伝子欠損ラインを構築した。 ③CRISPR/Cas9システムを用いて独自に作製したPrRP受容体発現細胞レポーターマウスにおいて目的の遺伝子が正しく挿入されているかの確認作業を行った。作製した1ラインにおいて、レポーターとして挿入したVenus遺伝子がPrRP遺伝子座に1コピー挿入されていることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
①PrRP産生細胞レポーター動物、AAV/Cre-DOGシステム、軸索局在型赤色蛍光タンパク質を組み合わせ、延髄孤束核、延髄腹外側部、視床下部背内側核に存在するPrRP産生ニューロンの軸索投射を明らかにする。 ②CRISPR/Cas9システムを用いて独自に作製したPrRP受容体遺伝子欠損マウスの脳切片に対するリガンド結合実験を用いて機能的なPrRP受容体タンパク質が欠失していることを確認する。慢性の社会的ストレスを負荷すると、PrRP 遺伝子欠損マウスと同様に、社会的探索意欲の減弱が起こるかを解析する。 ③樹立中のPrRP受容体発現細胞レポーターマウスにおいてVenus遺伝子が正しく挿入されているかをゲノムシークエンスによって確認する。このレポーターマウスを用いて、これまでに明らかになっていないPrRP受容体の脳内発現とその特性を明らかにする。また、社会敗北ストレス時に活性化するPrRP受容体ニューロンを特定する。 ④CRISPR/Cas9システムを用いて、時間・空間的にPrRP受容体遺伝子を欠損できる動物の開発を行っている。現在、目的のDNA配列が正しく挿入されているかを確認している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究の結果から、プロラクチン放出ペプチドのレジリエンス作用のメカニズムを明らかにするために必要な遺伝子改変動物の作製を優先することとした。そのため、実験計画の順序を変更した。本年度に行う予定であった免疫組織化学実験は、繰越金を用いて引き続き次年度に行う。
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