研究課題/領域番号 |
17K08578
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研究機関 | 東京医療学院大学 |
研究代表者 |
佐久間 康夫 東京医療学院大学, 保健医療学部, 教授 (70094307)
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研究分担者 |
折笠 千登世 日本医科大学, 先端医学研究所, 准教授 (20270671)
濱田 知宏 日本医科大学, 医学部, 助教 (90312058)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 内側視索前野 / 性的二型核 / 生殖行動 / 嗅覚 |
研究実績の概要 |
ヒトを含む多くの哺乳類で前脳腹側に位置する内側視索前野に、雄(男性)で雌(女性)より多数の細胞を擁し、体積も雄の方が雌より大きな「内側視索前野の性的二型核(SDN-POA)」がある。本研究代表者は(1)ラットのこの核の神経細胞が胎生18日と周辺の細胞群に遅れて発生; (2)一過性に成長ホルモンペプチドを発現; (3)マウスでカルビンジンを標識タンパクとして、これまで否定されてきたSDN-POAを世界で始めて報告;(4)エストロゲン受容体(ER)α遺伝子のプロモータ0/Bと蛍光たんぱくEGFP遺伝子を結合した人工遺伝子によるトランストランスジェニック(tg)ラットで、この核の神経細胞が特異的に標識されることを報告した。胎生18日令のtgラット脳の薄片を21日にわたり培養し、蛍光顕微鏡によるtime-lapse映画から、ERαの活性化がcoflinの再構成を通じて細胞移動を起こし性差を決定することを、エストラジオール(E2)、ERα antagonist (ICI 182,780)あるいは芳香化されないアンドロゲンであるジヒドロテストステロンの添加で検討し、細胞新生や選択的細胞死の関与を否定した(2017年国際行動神経科学学会、広島; 第40回日本神経科学学会、千葉、で発表)。行動実験ではddN雌マウスを単離して飼育すると、未経産個体が短時間で育仔行動を示すこと(第40回日本神経科学学会で発表)、雄ラットの涙腺からテストステロン作用により分泌されるCRP-1タンパクが、鋤鼻系から内側視索前野に至る中枢嗅覚受容神経回路に作用し、雌ラットが高い血中テストステロン濃度を持つ雄を選好する手がかりとなり、雌ラットの性行動の主要要素であるロードーシス反射の開始に先だって起こる歩行の停止に関わってることを明らかにした(Current Biology, 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動学的実験では単離・群飼育という環境要因が未経産雌マウスの育仔という、社会行動の一端を決定していることが判明した。行動の発現にはストレスホルモンであるコルチコステロンや親和行動を支配するオキシトシンといった脳内ペプチドが関与すると考え発表・議論を進めてエビデンスを蒐集中である。閉経期の女性にシェーグレン症候群やsimple dry eyeが多発することから涙腺の分泌に性ホルモンが関与する可能性が推論されてきたが確証はなく、血中テストステロンによるラットCRP-1タンパクの合成促進がアンドロゲン受容体、エストロゲン受容体の何れを介するかを今後調べることとしている。内側視索前野の性的二型核(SDN-POA)の投射野については、蛍光たんぱくが発現する線維をtgラット脳で追跡し、順行性・逆行性トレーサを使用して、中脳中心灰白質、腹側被蓋野、扁桃核内側部などとの線維連絡を明らかにする作業が進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
計画が順調に進行しているので、行動実験については例数の増加を目標にデータ蒐集を進める。 形態的実験による投射路の決定を進めながら、一定の結論が得られた段階で、それぞれの回路のエストラジオール反応性を急性麻酔下の電気生理学的実験により検討し、研究代表者がこれまでに集積してきたデータと比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予備実験の例数を増加し、組織標本作成に熟達するため、逆行性トレーサー(フルオロゴールド 約270千円/100mg)と順行性トレーサー(PHAL 20mg 約120千円/20 mg)の購入を次年度に行うこととした。これらの分子は時間を経ると使用前に失活するためである。翌年度分配分額と併せて、動物飼養経費、ガラス器具等消耗品、学会参加費、論文校閲、オープンアクセス費用に充当する。
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