研究課題/領域番号 |
17K08578
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研究機関 | 東京医療学院大学 |
研究代表者 |
佐久間 康夫 東京医療学院大学, 保健医療学部, 教授 (70094307)
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研究分担者 |
折笠 千登世 日本医科大学, 先端医学研究所, 准教授 (20270671)
濱田 知宏 日本医科大学, 医学部, 助教 (90312058)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オキシトシン / 共感性 / 性行動 / 痛覚 / フェロモン / 鋤鼻器 / 雌雄差 |
研究実績の概要 |
我々は2015年にオキシトシンがヒトとイヌの間で種を越えて心理学で言う「愛着」あるいは「共感性」の成立に関わることをScience(doi: 10.1126/science.1261022)に報じた。同年以降雄マウスを隔離して飼育すると、血縁にない新生仔の養育行動を示すこと(2015)、雄ラットでは交尾により、射精の有無に関わりなく尾への電気ショック閾値が上昇し、痛覚が鈍麻するが、この効果は慢性留置カニューレを通じてオキシトシンアンタゴニストを側脳室に注入することで消失する(2016)。これらの観察から、本年はオキシトシンが何らかのフェロモンによる嗅覚刺激を介して、異性とその性的活動度を検出している可能性を考え、オキシトシン・リガンドノックアウトマウスを用いて検討を行い、この仮説を支持する結果を得て報告した(本報告書業績リスト1) 。またオキシトシンノックアウトでは雌の性的受容開始が減弱するが、雄の性行動の開始には必要とされないという明確な性差があることを見出した。性行動の調節に関わるフェロモンの候補として、東原らが雄ラットの涙から分離した新奇の鋤鼻器受容体リガンドであるcystatin-relatedprotein 1が雌ラット受容行動の開始を起こすこと、このフェロモンがラットを天敵とするマウスには警告情報として利用されていることを明らかにした(本報告書業績リスト2)。一連の研究成果については国際行動神経科学学会(広島)におけるKeynote Lecture(招待講演)で報告し、大学共同利用機関合同企画I-URICフロンティアコロキウム(自然科学研究機構と人間文化研究機構の合同による)では二回にわたり招待講演を行い、自然科学系と人文科学系における性差の見方について討議の機会を持った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに性行動・回避行動を雌雄ラット・マウスで比較してきた。本年度は(1)雌・雄のオキシトシンノックアウト(KO)マウスを用いて、嗅覚に依存する性指向性を調べた。KOマウスは嗅球でのオキシトシン作用に依存する社会的記憶を欠くとされるが、性ホルモンに左右される性的指向も、雄では発情雌と非発情雌、また雌では健常雄と精巣摘除雄の区別が再三の試行によってもできなかった。性指向はそれぞれの性に固有の性フェロモンを手がかりとして学習が起こる。(2)雄ラットの性フェロモンの一つ、涙腺から分泌されるcystatin-related protein 1(CRP-1)は雌ラットの受容行動であるロードーシス反射に先だつ静止行動を誘起した。興味深いことに、ラットを天敵とするマウスでは、CRP-1が警報フェロモンとして作用し、回避行動とうずくまりを起こした。(3)ラットではオキシトシンが母仔・同胞との触れあいにより分泌される。早期の母子分離は「愛着」や「共感性」の成立を阻害し、成熟後社会性を欠き正常に交尾・仔育て行動ができない個体を生じる。同胞との触れあい、時に乱暴な"rough and tumble"行動が個体の社会性の個体の社会性の成立に必須である。この"rough and tumble"行動をまねて、験者が手を用いて離乳後性成熟に至るまでの時期に毎日触刺激を反復すると、刺激されたラットはいわば「手乗りラット」となり、験者との接触を積極的に求めるようになる。これまで少なからぬ研究が、この現象の中枢機構の解明を目指して行われてきたが、本課題では、刺激を与える験者に生じるラットへの「愛着」に注目し、特に東京医療学院大学が作業療法士養成の責を担っていることから、動物介在療法への応用を目指して研究を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
「手乗りラット」を訓練・作成する過程で験者に生じた「愛着」あるいは「共感性」の分子基盤に、オキシトシンの関与が想定されるので、(1)「手乗りラット」あるいは通常に飼養したラットに30分間験者を接する間に、唾液に分泌されるオキシトシンを定量する。並行して本研究補助金で整備したインナーバランスセンサーを用い、手の動きの干渉なしに耳朶から脈波を記録する。iOS上のHeartMath プログラムでRR間隔の変動からコヒーレンスを算出し、自律神経活動を評価する。「手乗りラット」と接することにより副交感優位となり、リラックスすること、通常飼育ラットではこのような効果が得られないと予測している。(2)30分間の動物との接触の後に引き続き脈波を記録し、別離がいわゆる「ペットロス」として、自律神経機能から検出できるか否かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
作成執筆中の論文の作図用コンピュータープログラムの使用月極経費として次年度使用額が生じた。作業の進行に伴い順次支出する。
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