研究実績の概要 |
酸化ストレス応答の鍵因子であるNrf2を誘導する化学物質、ビスフェノールA(BPA)とクロロゲン酸(CGA)を明らかにしているので、まずヒト肝がん細胞(Hep3B)を用いて、Nrf2の誘導機構、線虫を用いて寿命への影響を検討した。BPAは内分泌かく乱物質として様々な毒性が報告されており、一方CGAは最近抗がん作用が報告されたコーヒーに多量に含まれる物質である。BPAは直接IP3受容体に結合することで、細胞内カルシム濃度を上昇させ、これによって発生した一酸化窒素が、NRf2の制御因子であるKeap1を不活化することで、Nrf2を増加させることを明らかにした。一方, Nrf2の新規調節因子としてWDR23系を発見し、CGAはWDR23系の因子であるDDB-1の発現を低下させることで、Nrf2の発現量を増加させているメカニズムを明らかにした。 申請者は寿命研究モデル動物である線虫において、Nrf2の相同因子であるSKN-1の発現が寿命と関係していることを明らかにしており、BPA,CGA共にSKN-1を増加させるがCGAは寿命を延長し、BPAは寿命を短縮することを明らかにしている。線虫にはKeap1相同体はないがWDR23相同体が存在してSKN-1の発現は調節していること、BPAは線虫のIP3受容体相同体には作用しないことを明らかにしたが、BPAの線虫における作用部位は不明である。一方CGAに関してはヒトと同じメカニズムすなわちWDR23を介して、SKN-1の発現を上昇させることで、寿命を延長させているようだ。なお、WDR23, SKN-1の抗体は当該研究において作成したものである。
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