研究実績の概要 |
発熱の開始や維持には脳の視床下部視索前野の終板器官周囲部にあるPGE2受容体を介することが、最も重要な共通ステップであり、解熱および発熱抑制もこの部位のPGE2受容体が重要な役割を果たしていると一般に理解されている。本研究では麻酔したラットのこの部位に三連ガラスピペットを用いてPGE2を420 fmol注入し、ベースラインでの熱産生率に比べて1.5倍以上の大きさの熱産生反応が誘起された脳部位において発熱に関与するPGE2受容体サブタイプ(EP1, EP2, EP3, EP4)を同定する目的で受容体特異的な作動薬や拮抗薬を投与する下記の実験を行った。 EP3受容体作動薬スルプロストンを投与すると熱産生反応が誘起され、EP3受容体拮抗薬L-789106をPGE2投与の5分前に投与しておくと、その後のPGE2による熱産生反応の大きさは有意に減弱した。L-789106は10%DMSOに溶解して投与したが、L-789106を含まない10%DMSOのみの前投与ではPGE2による熱産生反応に影響しなかった。EP4受容体作動薬であるリベンプロストを投与しても熱産生反応が起きた。EP4受容体拮抗薬であるONO-AE3-208をPGE2投与の前に投与しておいた場合でも、その後のPGE2による熱産生反応の大きさは顕著に減弱した。EP1受容体作動薬であるイロプロストを投与すると微弱ではあるが有意な熱産生反応が誘起された。一方、EP1受容体拮抗薬であるAH6809を前投与してもPGE2による反応に影響しなかった。イロプロストはEP1 およびプロスタサイクリン受容体に高親和性ではあるが、EP3とEP4受容体にも親和性があるので、イロプロストの作用はこれらの受容体を介している可能性がある。EP2受容体作動薬であるブタプロストを投与しても熱産生に影響しなかった。これらの結果からはEP4とEP3受容体の両方がPGE2による熱産生反応およびその抑制に関わることが示唆された。
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