研究課題
アンギオテンシンタイプ1(AT1)受容体の活性化は、カルシニューリン調節性転写因子であるNFAT(Neuclear factor of activated T cells)を介する遺伝子発現応答を惹起する。NFATc4は5つのNFATサプタイプの中で心筋細胞に主要なものであるが、更にその持続的な活性化は心不全の原因となることが示されている。従って、NFATc4は心不全治療薬の有力な標的候補分子と考えられる。しかしながら、これまでNFATファミリーのサブタイプ選択的な阻害剤は報告されておらず、それは、NFATサブタイプごとの活性を簡便に評価する方法がなかったことが一因であると考えられる。NFATサブタイプの活性を個々に評価するためには、それぞれのサブタイプを遺伝子導入することで、NFAT活性を再構成できる機能的NFAT欠損細胞が有用である。申請者は、細胞に過剰発現したAT1受容体をリガンド刺激して、それに呼応して誘導されるNFAT応答配列依存性ルシフェラーゼ活性を指標に、外来性に強制発現させた各種NFATサブファミリー分子依存的にルシフェラーゼ活性の誘導を示す細胞株を探索した。種々の細胞株をスクリーニングした結果、機能的NFAT欠損株を見出だすことができた。この細胞株は、NFATサブタイプを強制発現していない場合、過剰発現したAT1受容体をリガンドで刺激してもほとんどルシフェラーゼ活性の誘導が見られないのに対し、各種NFATサブタイプを強制発現させた場合にのみ、AT1受容体刺激依存性のルシフェラーゼ活性の誘導が見られた。そこで、個々のNFATサブタイプを発現した細胞を用いて、AT1受容体刺激依存性ルシフェラーゼ活性に対する被検定化合物の阻害効果をプロファイルすることで、NFATc4選択的阻害剤を同定するアッセイ系を確立することができた。
3: やや遅れている
各種NFATサブタイプ活性を評価するアッセイ系は、機能的NFAT欠損細胞に3種類の遺伝子(AT1受容体遺伝子、NFAT応答配列融合ルシフェラーゼレポーター遺伝子(NFAT-Luciferase)及び各NFATサブタイプ遺伝子)の導入が必要である。多種類の遺伝子導入によるアッセイ系の不安定化を解消して、堅牢なハイスループットスクリーニング系を確立するために、それらの遺伝子を組合わせて恒常的に発現するインディケーター細胞の作製を行っている。ネオマイシン耐性遺伝子を有するself inactivating化したレトロウイルスベクターに、NFAT-Luciferaseを組込んだプラスミドベクターを構築した。このプラスミドベクターをパッケージング細胞に導入して調整したレトロウイルスを、レトロウイルス受容体(マウス由来陽性荷電アミノ酸トランスポーター)を恒常的に発現させた機能的NFAT欠損細胞に感染させた後、G418でNFAT-Luciferase導入細胞を選別した。樹立した細胞株にAT1受容体遺伝子及び個々のNFATサブタイプ遺伝子を一過性に発現さた後に、AT1受容体刺激を行ったところ、個々のNFATサブタイプ遺伝子の発現依存性にルシフェラーゼ活性を検出することができた。今後、この細胞株にAT1受容体遺伝子及び各種NFATサブタイプを恒常的に発現させたインディケーター細胞を樹立して、ハイスループットスクリーニングに対応したアッセイ系を構築する。
NFAT応答配列融合ルシフェラーゼレポーター遺伝子(NFAT-Luciferase)を恒常的に導入されたインディケーター細胞を樹立し、各種NFATサブタイプ遺伝子依存性のルシフェラーゼ活性を確認することができた。この細胞株に順次AT1受容体遺伝子及び各NFATサブタイプ遺伝子を導入して、ハイスループットスクリーニングに適したインディケーター細胞株の樹立を試みる。インディケーター細胞樹立後は、細胞数、リガンド濃度、受容体刺激時間、ルシフェラーゼ活性検出試薬の濃度などを検討してハイスループットスクリーニング系を確立する。本アッセイ系では、NFAT上流にあるAT1受容体拮抗阻害剤、Gqタンパク質阻害剤、ホスホリパーゼCβ阻害剤、カルシニューリン阻害剤が擬陽性化合物として選択されてくる可能性がある。これらの阻害剤はNFATの上流であるため、各種NFATサブタイプ依存性のルシフェラーゼ活性を非選択的に阻害することが予想される。そこで、上記の阻害剤を用いて、各種NFATサブタイプ依存性のAT1受容体刺激依存性ルシフェラーゼ活性に対する阻害活性プロファイルを取得して、NFATの上流に対する阻害剤を擬陽性として選別可能であることを検証する。スクリーニング系を確立後、まずは東京大学創薬機構の所有する構造多様性等を考慮して選抜した代表9600サンプル類似化合物からなるコアライブラリーをスクリーニングする。
本アッセイ系は当初プラスミドを一過性に発現させて行うものであったが、低分子化合物ライブラリーをスクリーニングするために96穴マイクロプレートの全面を使用する方法では、ウェル間で予期しないバラツキが見られることがわかった。そこで、この点を改善するためにアッセイで利用する3種類の遺伝子を恒常的に組込んだインディケーター細胞を樹立することにした。その結果、低分子化合物ライブラリーのスクリーニングの計画を延期することが生じた。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件)
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