研究課題/領域番号 |
17K08588
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
新藤 優佳 信州大学, 医学系研究科, 研究員 (50507506)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 血管 / 血管新生 |
研究実績の概要 |
アドレノメデュリン(AM)は、血管をはじめ全身で広く産生され、多彩な生理活性を有する生理活性ペプチドである。我々はAMノックアウトマウス(AM-/-)と、AM受容体活性調節タンパクであるRAMP2(receptor activity-modifying protein 2)のノックアウトマウス(RAMP2-/-)が、共に血管の発生異常により胎生致死となることから、AM-RAMP2系が、血管新生にも必須であることを報告してきた。一方、AMは、様々な癌においても産生される。本研究では、腫瘍の増殖と転移におけるAM-RAMP2系の意義の検討を行った。 RAMP2floxマウスをVEカドヘリンMerCreMerマウスと交配することにより、誘導型の血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス (DI-E-RAMP2-/-)ラインを樹立し、成体になってから血管のRAMP2遺伝子欠損を誘導した。DI-E-RAMP2-/-では、タモキシフェン5日間の投与後、2週間後に、血管におけるRAMP2発現が20%以下に低下することが確認された。 DI-E-RAMP2-/-を用いて、B16F10メラノーマ細胞の皮下移植実験を行なうと、コントロールマウスに比較して、腫瘍内血管新生は減弱し、腫瘍増殖は抑制された。その一方で、B16BL6メラノーマ細胞を用いて、原発巣から遠隔臓器への転移モデルの検討を行ったところ、DI-E-RAMP2-/-では肺への転移率が亢進するという結果となった。血管内皮細胞のRAMP2欠損により、転移予定先臓器の血管における慢性炎症が、癌細胞の「転移前土壌」となり、癌の遠隔臓器への転移を促進させる可能性を考えて検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
誘導型の血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス (DI-E-RAMP2-/-)ラインを樹立することで、成体になってから血管のRAMP2遺伝子欠損を誘導し、解析に用いることが可能となった。DI-E-RAMP2-/-では肺への転移率が亢進する結果が得られており、今後そのメカニズムについて検討を進める計画である。
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今後の研究の推進方策 |
DI-E-RAMP2-/-では、原発巣摘出後の腫瘍肺転移が亢進するという結果が得られた。これまでの検討より、DI-E-RAMP2-/-では、転移先である肺において、血管内皮細胞接着因子の発現低下と、内皮細胞の変形や逸脱といった血管の構造異常が観察され、分離培養した血管内皮細胞では細胞骨格の形成不全が認められた。更に DI-E-RAMP2-/-の肺ではマクロファージの浸潤の亢進が認められた。これらのことから、AM-RAMP2システムが血管の恒常性維持や慢性炎症の抑制に働き、腫瘍転移に抑制的に働いている可能性を考えている。平成30年度の研究では、AM-RAMP2システムによる腫瘍転移抑制メカニズムの詳細を解明する。
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