研究実績の概要 |
マクロファージの活性化による慢性的な炎症刺激は、潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患のみならず、がんや動脈硬化、肥満などの様々な疾患の発症や増悪に関与し、これら慢性難治性疾患の治療標的として期待が大きい。我々は疾患モデルやヒト検体を用いた検討から、EP4受容体結合蛋白として見いだされたEPRAPが、マクロファージの炎症性活性化を抑制し、慢性炎症の病態生理に極めて重要であること、さらにPP2AによるEPRAPの脱リン酸化が抗炎症作用発現に重要で、その指標となることを見いだした (Nakatsuji M, et al. PLoS Genet. 2015; Higuchi S, et al. J Immunol. 2016)。本研究は慢性炎症制御による新規医療の開発を目指し、EPRAPおよびその関連分子を標的とした、創薬および診断法の開発に関する探索的研究を行うものである。 平成30年度は、EPRAP欠損マウスを用いて食事誘導性肥満モデルを作成し、肥満における慢性炎症でのEPRAPの機能を検討した。その結果、肥満の状態では、野生型と比較しEPRAP欠損マウスにおける全身の炎症マーカーの発現等に有意差は無く、むしろEPRAP欠損マウスでは肝臓での糖新生が著明に抑制され、耐糖能異常が有意に改善されることを明らかにした (Higuchi S, et al. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2018)。我々のこれまで研究成果から、EPRAPは、各臓器や組織、細胞特異的な機能を有し、生体防御や精神神経系、エネルギー代謝など実に様々な面で生体の恒常性維持 (ホメオスタシス) に極めて重要な働きをしていることが明らかとなった。EPRAPが関与する恒常性維持機能の全容解明に向け、特にEPRAPの翻訳後修飾に着目し、引き続きリン酸化EPRAP特異抗体作成も進めている。
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