研究課題
細胞内シグナル伝達を操作するため、体内には存在しないリガンド(CNO)でのみ活性化される各種受容体(DREADD)を発現するアデノ随伴ウイルスを作製した。まず、神経細胞内のサイクリックAMPを増加させる受容体の効果が現れる条件を検討するため、これらのウイルスをマウス皮質由来神経細胞に感染させ、2週間後にCNOを添加した。CNOの有無にかかわらず、神経活動マーカーであるc-Fosの発現が高く、初代培養神経細胞は通常の培養条件化においてもすでに細胞内シグナルが活性化していることが明らかとなった。そこで、神経細胞をナトリウムチャネル阻害剤であらかじめ処理し、その後、CNOを添加した。その結果、CNOの添加によりc-Fosの発現上昇が観察された。神経細胞内のサイクリックAMP濃度を減少させる受容体を発現した神経細胞では、CNOの添加によりc-Fosの発現が抑制された。これらの実験から、神経細胞の細胞内シグナルを操作する条件を確定した。一方、研究代表者らは、過去の研究において一部のダメージ関連分子(DAMPs)が反復ストレスにより脳内で発現上昇することを示した。それらに対する中和抗体をマウスの前頭前皮質に投与したところ、反復ストレスにより誘導される抑うつ行動が抑制された。この結果は、反復ストレスによりこれらのDAMPsが神経細胞から放出され、ミクログリアを活性化し、抑うつ行動を誘導する可能性を示している。そのため、これらのDAMPsが神経細胞から放出されるメカニズムやミクログリアへの作用について、初代培養神経細胞・初代培養ミクログリア・レポーター細胞を用いて検討する。
2: おおむね順調に進展している
予想以上の時間がかかったものの、神経細胞の細胞内シグナルを操作する条件を確定し、本研究計画の基盤となる実験基盤が整った。また、一方で、この実験が本研究計画の中核をなすことから、条件検討と並行し、最終年度に予定していたマウスの行動実験を行った。その結果、DAMPsの候補分子を同定することに成功した。
平成29年度に確定した実験条件を用いて、当初予定していたレポーターアッセイおよび生理活性脂質の網羅的脂質解析を行い、NFkB経路の活性化またはプロスタグランジンE2産生を誘導する神経細胞の遺伝薬理学的操作法を同定する。さらに、上記で同定した神経活動を誘導するチャネルまたは受容体を同定する。これらの中から、ミクログリアのTLRの活性化やプロスタグランジンE2産生を担うDAMPsの放出に関与する神経細胞のチャネルまたは受容体の同定にも行う。また、反復ストレスによる抑うつ行動の誘導に関与するDAMPsを産生する細胞種の同定を行う。神経細胞で産生される場合、神経細胞のどのシグナルの活性化によって放出されるかをDREADDやPSAMのシステムを用いて検討する。さらに、これらのDAMPsがTLR依存的かどうかについてもTLR阻害剤等を用いて検討する。
条件検討に時間を要したため、当該年度に計画していた実験の一部を次年度に行うことにした。次年度は当初計画していた実験に加え、当該年度に計画していた実験を並行して行う予定である。
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