研究課題
脳内炎症は神経変性疾患のみならず、精神疾患においても病態に関与することが知られている。研究代表者らは、ストレスの繰り返しによるミクログリアの活性化にTLR2およびTLR4が必須であることを見出し、報告している。そこで、本研究では、ミクログリアを活性化する神経細胞由来因子の同定を目指し、さらに、同定した分子がストレスの繰り返しにより誘導される行動変化に関与するかについても検討する。本研究課題では、遺伝薬理学的手法であるDREADDにより神経活動を変化させた初代培養神経細胞の培養上清を、幼若マウス由来の初代培養ミクログリアに添加する予定であった。しかし、幼若マウスと成体マウスから採取したミクログリア間で遺伝子発現の違いがあることが報告されたため、成体マウスから初代培養ミクログリアを採取し、本研究計画に用いることにした。まず、成体マウスから採取した初代培養ミクログリアのTLR2・TLR4リガンドに対する反応性を確認した。研究代表者はすでに、ストレスの繰り返しによりマウスのミクログリアでTLR2/TLR4依存的にIL-1αおよびTNFαの発現が上昇することを見出している。そこで、成体マウス由来初代培養ミクログリアにTLR2・TLR4リガンドを添加したところ、これらの炎症性サイトカインの発現が顕著に増加した。さらに、ストレスの繰り返しによりマウスのミクログリアでTLR2/TLR4依存的に変化する転写因子を複数同定しており、これらの転写因子が初代培養ミクログリアのTLR2またはTLR4の活性化により発現が変化するかについても検討を行った。その結果、TLR2またはTLR4の活性化により発現が変化する3種類の転写因子の同定に成功した。
2: おおむね順調に進展している
生体により近い成体マウス由来初代培養ミクログリアを本研究課題で使用することが可能となった。また、TLR2/TLR4に特異的な転写因子を同定したことにより、TLR2/TLR4を活性化する神経細胞由来因子の同定の確度の向上に繋がることが期待される。
平成30年度に同定した転写因子はTLRのシグナル伝達への関与が報告されていないことから、ミクログリアの活性化を示す指標として重要であると考えられる。本研究課題では、NFκBやIRFのレポーター細胞を用いる計画であるが、TLR2やTLR4以外の受容体の活性化によってもNFκBやIRFは活性化される。そのため、繰り返しストレスによりマウスミクログリアでTLR2/TLR4依存的に発現変化した転写因子のレポーター細胞を作製することは、脳内炎症を誘導する神経細由来因子の同定に非常に有用であると考えられる。そこで、初代培養ミクログリアでレポーター細胞を確立する。NFκBやIRFのレポーター細胞はマクロファージ由来細胞株であることからも、ミクログリアでのレポーターアッセイを実現させることにより、より生体に近い実験条件となることが期待される。また、上記で作製したレポーター細胞に、DREADDなどの方法により神経活動を変化させた初代培養神経細胞の培養上清を添加し、同定した転写因子が活性化される条件の特定を目指す。
条件検討に時間を要したため、当該年度に計画していた実験の一部を次年度に行うことにした。次年度は当初計画していた実験に加え、当該年度に計画していた実験を並行して行う予定である。
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