研究課題
本研究課題では、申請者らが発見した生理活性脂質スフィンゴシン1-リン酸(S1P)によるエクソソームへの積荷タンパク質ソーティング機構の成果を発展させ、癌における転移候補先臓器の転移前炎症環境形成におけるS1Pシグナリングによる悪玉エクソソーム成熟機構の詳細を明らかにすることを目的としている。平成29年度は、「課題1」である「細胞内局所でのS1Pイメージング技術の開発」を行った。具体的には、生体細胞内局所でのS1P動態のリアルタイムイメージングを行うための、蛍光共鳴エネルキー移動(FRET)の原理を用いたS1Pセンサーの開発を行った。FRETによるS1PセンサーはS1P結合ドメインをシアン蛍光タンパク質(CFP)及び黄色蛍光タンパク質(YFP)でサンドイッチした構造とした。既知のS1P結合ドメインを数種類用意し、遺伝子組換え技術によりS1Pセンサーのプロトタイプを構築し、蛍光光度計を用いてS1P検出能力の評価を行ったところ、S1Pに対して有意な応答を示すS1Pセンサーが得られた。さらにこのS1Pセンサーを培養細胞に遺伝子導入し、細胞内でのS1P応答性についてFRET蛍光イメージング顕微鏡システムを用いて検討したところ、S1P添加によるS1PセンサーのFRET変化が観察された。S1P産生の細胞内での動態を観察した例はなく、今回世界に先駆けて細胞内でのS1P動態のイメージングに成功したことは画期的である。ただ現行のS1Pセンサー(プロトタイプ)のS1Pに対する応答性は弱く、課題2の遂行を視野に入れ、引き続きより鋭敏なS1Pセンサーの完成へ向けた研究開発が必要である。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、本研究課題の最終的な目標の達成に向けて、「課題1」の「細胞内局所でのS1Pイメージング技術の開発」に関する研究を進め、結果S1Pに有意に応答するFRET原理によるS1Pセンサーのプロトタイプの構築に成功した。ただS1Pに対する応答性はまだ弱いものであり、現在より鋭敏なS1Pセンサーの完成に向けてさらなる改良を進めている。現在までのところ研究期間全体を通しておおむね順調に進展している。
平成30年度は、まず「課題1」の「細胞内局所でのS1Pイメージング技術の開発」を完遂し、「課題2」の「転移前炎症領域におけるエクソソーム積荷ソーティング亢進細胞の同定」までを行う。「課題1」のS1Pセンサーの開発については、現在平成29年度に作製したプロトタイプの改良に加えて、新たなS1P結合ドメインの検討を進めている。十分なFRET変化が得られるS1Pセンサーが完成した後、完成したS1P センサーに多胞体エンドソーム局在化タグを融合したコンストラクトを作製し、FRET蛍光イメージング顕微鏡システムを用いて多胞体エンドソーム上でのS1P産生のFRETイメージング評価を行う。また「課題2」では、「課題1」で作製した多胞体エンドソーム局所的S1Pセンサーを用いて、炎症環境において多胞体エンドソーム上でのS1P産生およびエクソソームへの積荷タンパク質のソーティングが亢進した細胞種を同定する。
FRETの原理を用いたS1Pセンサーの開発において予定よりもスムーズに開発が進んだため、S1Pセンサーの構築に必要な試薬類の支出が下がった。平成30年度の研究費は、平成29年度に引き続き主に消耗品費として使用する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
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