研究課題
本研究課題では、癌の増悪におけるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)シグナリングの役割を分子レベルで明らかにし、癌の増悪を分子レベルで制御する新たな治療法開発への道筋をつけることを目的としている。これまでの研究成果により、癌の増悪におけるS1Pの標的としてプロテインキナーゼCζ(PKCζ)を同定した。そこで令和元年度は、PKCζの細胞内での活性化を蛍光共鳴エネルキー移動(FRET)の原理を用いたレポーターによりリアルタイムにモニターすることで、細胞内でのS1Pの作用を間接的に検出する手法を開発した。本手法を用いて様々な癌細胞株におけるS1Pの作用を検出したところ、乳癌や扁平上皮癌など多くの癌細胞種においてS1Pの作用が高くなっていることが明らかとなった。また癌細胞ではS1Pが恒常的に産生されており、その結果としてS1PのターゲットであるPKCζの恒常的な活性化が形成され、このS1P-PKCζシグナリングの高い恒常活性が癌細胞のアポトーシス抵抗性を制御することを見出した。この結果は、スフィンゴシンキナーゼによるS1Pの産生が癌増悪の律速となることを示した点で重要である。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度は、本研究課題の最終的な目標である「S1Pシグナリングを標的とする副作用の少ない選択的抗癌剤等による癌増悪の分子レベルでの制御」に向けて、癌の増悪におけるS1Pシグナリングの役割をS1PのターゲットであるPKCζとの関連から明らかにすることを試み、癌増悪におけるS1Pの重要性、癌増悪の新規分子メカニズムとしてのS1P-PKCζシグナリングの同定に成功した。
今後は、本研究課題の最終的な目標である「S1Pシグナリングを標的とする副作用の少ない選択的抗癌剤等による癌増悪の分子レベルでの制御」に向けて、癌の増悪におけるS1P-PKCζシグナリングの下流ターゲット(アポトーシスやエクソソーム積荷ソーティングなど)の同定を推進する必要がある。また、これまでの研究成果を国内外の学術集会および論文により報告する。
令和元年度に達成した課題は細胞を用いた実験系で必要十分な内容が多かったため、動物実験に必要な支出が下がった。また最終年度にこれまでの研究成果を国際学術集会および論文にて発表する予定であったが、当該国際学術集会の開催は2020年度となり、また論文も2020年度になるため、補助事業期間の延長および次年度使用額の申請を行った。令和2年度の研究費は、国際学術集会での研究成果の発表、および論文掲載へ向けた追加実験のための主に消耗品費として使用する。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Nature cell biology
巻: 21 ページ: 359 - 371
https://doi.org/10.1038/s41556-019-0291-8