我々は有望な抗がん薬開発ターゲットであるグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(GSK-3)の活性化をその分子基盤とし、細胞周期進行をG1期で強力に拘束する Differentiation-inducing factor;DIF(DIF-1およびDIF-3)をリード化合物とした、“新規抗がん薬”の開発を目指して研究を続けている。 現在までに、DIFの作用機序に加えて、生体内でも抗がん作用を持つことを報告してきた。しかし、標的分子の解明に至っていない。そこで本研究では、GSK-3タンパク質側からとDIF分子側からの2種類のプルダウン法でDIF標的分子の探索・同定を目指している。 本年度はDIF-3分子を修飾し、アフィニティークロマトグラフィーを行った。以前、DIF-1分子を使用したアフィニティークロマトグラフィーを行った時と同様に、結合タンパク質として14-3-3ζが確認された。そこで、ヒト子宮頸がん由来細胞HeLaを用いて、14-3-3ζへのDIFの効果についての検討を行ったところ、DIFと14-3-3ζが細胞内でも結合している可能性が示唆され、14-3-3ζがDIFの標的分子の1つであることが示唆された。 DIFの作用における14-3-3ζの機能を明らかにするため、siRNAによる14-3-3ζのノックダウンを行ったが、明確な変化は認められなかった。しかし、その過程で14-3-3ζと結合し、発がん機構と関連するHippo pathwayで中心的な役割を果たすYAPが、DIFによりGSK-3およびビキチン依存性に分解されることを見出した。これはDIF抗がん作用の新たな作用機序の解明につながる知見である。
|