研究課題/領域番号 |
17K08599
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
宮田 篤郎 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (60183969)
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研究分担者 |
神戸 悠輝 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 助教 (60549913)
栗原 崇 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (60282745)
塩田 清二 星薬科大学, 先端生命科学研究所, 教授 (80102375)
平林 敬浩 星薬科大学, 先端生命科学研究所, 寄附講座等助教 (40297015)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 学習・記憶 / アストロサイト-ニューロン乳酸シャトル / 下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド / アストロサイト |
研究実績の概要 |
in vivo恐怖記憶の学習および想起の過程における,PACAPを介したアストロサイト-ニューロン乳酸シャトル (ANLS) の寄与を検討する目的で,学習および想起の1時間後に,恐怖記憶に関与することが報告されている脳部位である,内側前頭前皮質,扁桃体および海馬を獲得し,それぞれの脳部位に含まれるグリコーゲン量および乳酸量を測定した.その結果,記憶の獲得に伴って海馬の,想起に伴って扁桃体および海馬の,グリコーゲン量の減少および乳酸量の増加が正常マウスでは観察されるものの,PACAP (-/-) マウスではグリコーゲン量の減少は正常であるものの,乳酸量の増加は抑制されることが明らかとなった.すなわち,PACAPはグリコーゲン量よりもむしろ乳酸産生量に影響を与える可能性が示唆された.乳酸はピルビン酸から乳酸脱水素酵素 (LDH) によって合成され,モノカルボン酸トランスポーター (MCT) によって細胞外に分泌されることから,PACAPの作用部位はLDHあるいはMCTであると想像される.さらに,マイクロダイアリシスの結果より,PACAPの脳室内投与は30分以内に海馬細胞外液中の乳酸濃度を増加させることから,ポストトランスレーショナルモディフィケーションのような早い反応が推測される.そこで,発現ベクターにMCT1およびMCT4を組み込み,培養アストロサイトに発現させた後にPACAPを曝露し,MCT1およびMCT4の細胞内局在を観察したが,MCT1およびMCT4が細胞膜へ輸送されるような局在変化を捉えることは出来なかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まずは,本研究課題の遂行に必要な手法および材料はすべて調達済みであることが挙げられる.PACAPの特異的受容体であるPAC1Rは本研究課題の主要なターゲットであるアストロサイトのみならず神経細胞にも発現していることから,アストロサイト特異的なPAC1Rのノックアウト (KO) は本研究課題の核であった.このことを達成するためにPAC1Rのfloxマウスを調達する必要があるが,カリフォルニア大学ロサンゼルス校のワシェック教授との共同研究によって,当該マウスは現在,鹿児島大学へ輸送中である.一方で,PAC1RのfloxマウスからPAC1RをKOするためにはアストロサイト特異的にCreを発現するマウスが必須である.実は,これまでの研究で頻用されてきたGFAPプロモータのドライブでCreを発現するマウスでは神経前駆細胞がGFAP陽性であるため,完全にアストロサイトだけのPAC1RをKOすることが難しかったが,Aldh1l1プロモータのドライブでCreを発現するマウスを使用することによって,よりアストロサイトに選択的なPAC1RのKOが可能となる.このマウスも6月中に導入予定である.手法的な側面として,本研究では代謝物の測定が必須となる.代謝物は一般的にターンオーバーが非常に早く,脳への血流がストップするととたんに脳内の代謝物の組成が変わる.代謝物は酵素によって変換されることから,速やかに代謝物と酵素を遠ざけることが肝要であり,マイクロダイアリシスが最善の方法と考えられる.そこで我々は独自にマイクロダイアリシス法を確立し,記憶の獲得に伴って,海馬細胞外液中における乳酸濃度が増加することを観察出来ている.今後は,この方法をPACAPやPAC1RのKOマウスに適用し,PACAP/PAC1RのシグナルがANLSに及ぼす影響を観察する.
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今後の研究の推進方策 |
PACAP特異的受容体であるPAC1Rは神経細胞のみならず,アストロサイトにも豊富に存在していることが知られている.しかしながら,どのような生理的意義があるのか全く明らかとなっていない.そこで,まず,PAC1R受容体をアストロサイト特異的にKOしたマウスを用いて,オープンフィールド試験にて一般的な行動,Y迷路試験によってワーキングメモリー,バーンズ迷路試験および受動回避学習試験によって長期記憶を評価する.さらに,前年度までに確立したマウスのマイクロダイアリシス法を用いて,PACAPおよびPAC1RのKOマウスにおける,記憶の獲得時および想起時における海馬細胞外液中の乳酸濃度を自由行動下のマウスで測定する.一方,我々はin vitroの実験系において,グリコーゲンの分解や乳酸の分泌はタンパク質キナーゼA (PKA) よりもむしろ,タンパク質キナーゼC (PKC) によって調節されることを見出している.このことをin vivoにおいても証明するために,クロザピンNオキシド (CNO) で活性化される人工受容体である,hM3D (PKCを選択的に活性化) および rM3D (PKAを選択的に活性化) を,扁桃体および海馬のアストロサイト特異的に発現させて,その後,CNOを腹腔内に投与後,それぞれの脳領域の細胞外液中に含まれる乳酸をマイクロダイアリシスで回収し測定する.さらに,PKCにはα,β,γ,δ,θ,λ,μおよびζといった多くのサブタイプが存在していることが知られている.我々は,培養アストロサイトにPACAPを曝露すると,δおよびζが強くリン酸化されることを見出している.そこで,PKCδおよびPKCζのドミナントネガティブ体を発現するアデノ随伴ウイルスベクターを調製し,海馬に感染させ,受動回避学習およびANLSの活性化に与える影響を観察する.
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子改変マウスを米国から、導入予定であったが、交渉過程で、そのスケジュールが来年度になったため、その分次年度への繰り越し額が大きくなった。
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