研究課題
腫瘍血管は,正常血管と異なり血管組織の構造的・機能的に脆弱であることが知られている。このことに起因する血流や血管透過性の変化が,酸素や栄養分の供給や薬剤の腫瘍組織への送達を低下させ,ひいては放射線治療や薬物治療に対する抵抗性獲得に寄与している。すなわち,腫瘍に対して成熟血管の形成が治療の感受性を決定する要因と考えられる。しかし,脆弱な腫瘍血管を正常血管に形質変化させる分子機構や方法について未だ詳細は不明である。また、がん微小環境は,腫瘍細胞特有のエネルギー代謝や腫瘍血管の脆弱性により,腫瘍組織内において低酸素,低栄養,低pHをもたらし,このことは腫瘍悪性度を増す要因となっている。また,がん微小環境は,腫瘍組織に浸潤しているマクロファージに対して腫瘍増殖に有利な方向,すなわち腫瘍免疫を抑制する方向に極性化させる。本研究課題では,最近申請者が見出した,プロリン水酸化酵素(PHD)阻害剤による腫瘍血管の正常様血管への誘導についてその分子機序を解明し,さらに腫瘍血管の正常化を誘導する化合物のスクリーニング法を確立して新規抗腫瘍治療法開発のための研究基盤を構築する。その過程において、私たちは,PHD阻害薬が,腫瘍増殖を抑制し,マウスの生存期間を延長することを示した。すなわちPHD阻害薬は腫瘍血管を再構築することにより構造的機能的に正常様の血管に変化させてがん微小環境を改善し,さらにマクロファージ亜集団に直接作用してその形質を変化させて腫瘍組織の自然免疫を活性化することにより腫瘍増殖を抑制した。具体的には、腫瘍移植モデル実験において,HIFシグナルを増強するPHDiが、腫瘍内のLy6CloMφ亜集団に直接作用することにより、腫瘍細胞に対する貪食活性を促進して腫瘍増殖を抑制して生存期間を延長させることを見出した。
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