研究課題/領域番号 |
17K08604
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小島 史章 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (30550545)
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研究分担者 |
市川 尊文 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (30245378)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | プロスタノイド |
研究実績の概要 |
多発性硬化症(MS)の発症要因や機序には、一部の炎症性サイトカインの関与が指摘されているものの十分には解明されていないのが現状である。我々は、クプリゾン(CPZ)誘発脱髄モデルと膜型プロスタグランジン(PG)E2合成酵素-1(mPGES-1) 欠損マウスを用いた本研究によって、mPGES-1が免疫系を介さずとも直接的にMSの病態形成で増悪因子として働く可能性を見いだした。 CPZ投与群では野生型マウスとmPGES-1欠損マウスともに、餌摂取量および体重が著しく減少した。これらの変化は、両マウス間で同程度であった。一方、CPZで誘発される脱髄および運動機能障害は、野生型マウスに比べてmPGES-1欠損マウスで軽度であった。このことから、mPGES-1は脱髄および運動機能障害を悪化させることが明らかとなった。また、COX-2阻害薬を用いてmPGES-1の上流酵素であるCOX-2を薬理学的に阻害した場合にも、CPZによる運動機能障害は強く抑制された。つまり、COX-2とmPGES-1の連続した酵素反応で産生されるPGE2が、運動機能障害を悪化させる可能性が示唆された。さらに、大脳におけるPGE2産生酵素の遺伝子発現を調べたところ、CPZの投与によって大脳でmPGES-1の発現が増加することが明らかとなった。一方、COX-2の発現は、野生型マウスとmPGES-1欠損マウスともに、CPZの投与による大きな変化は認められなかった。また、4種類のPGE2受容体サブタイプ(EP1-EP4)の遺伝子発現についても検討したところ、EP1からEP4までの全ての受容体において、野生型マウスとmPGES-1欠損マウスの間での差は認められなかった。本研究によって、MSの病態形成におけるmPGES-1の重要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は計画通り、mPGES-1欠損マウスおよび対照群に対してCPZ誘発脱髄モデルを用いた解析行うことで、MSの病態形成におけるプロスタノイド産生系の役割を明らかにすることができた。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によって、MSの病態形成におけるCOX-2/mPGES-1/PGE2系の重要性が示唆された。そこで今後は、COX-2/mPGES-1/PGE2系の標的となる脱髄・再髄鞘化関連分子群を同定し、それらの動態を解析する。また、PGE2 産生細胞と共に、COX-2/mPGES-1/PGE2 系の標的となりうる神経細胞やミエリン形成細胞であるオリゴデンドロサイトなどのグリア系細胞を共培養する実験系を用いて、脱髄・再髄鞘化でのmPGES-1/PGE2 系とその標的となる因子・シグナル系の役割の詳細を細胞・分子レベルで明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
In vitro実験系のスケールを可能な限り小さくすることにより酵素等の試薬の必要量を最小限にして解析を行うことができたため、当初の計画より節約して実験を行うことが可能であった。 29年度に購入予定であった各種抗体を次年度で購入し、MSの病態形成に関連するタンパク質発現を重点的に検討する予定である。また、一部を国際学会における研究成果発表のための費用にあてる予定である。
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