現在、日本人の死亡原因疾患の第1位はがんであり、2位に心臓病、3位に脳卒中と続く。しかし心臓病・脳卒中の殆どが動脈硬化に起因する事実を考慮すれば、実質的な死亡原因1位は動脈硬化といえる。
申請者らは動脈硬化を含む種々炎症関連領域に特異的かつ一過的に高発現する細胞外マトリクス分子、テネイシンCに注目し、これまでに本分子が内包する生理活性領域の1つ(領域X)が、マクロファージの発現形質調節を介して動脈硬化を進展させることを見出した。令和元年度は動脈硬化に中心的に関わるマクロファージに再度立ち返り、領域X刺激によるマクロファージへの影響が、動脈硬化以外の加齢性・慢性炎症性疾患への波及に注目した解析を行った。
昨年度に平滑筋細胞の機能調節作用を認めた領域X濃度の1/10濃度にてマクロファージを刺激したところ、活性酸素産生が穏やかながら増加することを見出した。しかしながらここにLPSなどの刺激物を同時に作用させても、LPS単独刺激群と比してさらなる活性酸素産生亢進は認められなかった。マクロファージに代えて単球のモデル細胞であるHL60細胞、さらにはDMSO刺激にて好中球に分化させたHL60細胞を用いても、同様の観察が得られた。なおこの際いずれも細胞も、増殖や分化の程度に、領域X刺激による差は認められなかった。これらの結果から領域XによるbasalなROS levelの上昇が遺伝子発現に及ぼす影響について検討するため、SAGE法による遺伝子発現解析を行った。その結果種々慢性炎症性疾患において発現変動が報告されている遺伝子について、マクロファージにおいて領域X刺激に伴う発現調節機構が存在する可能性を見出した。全てが活性酸素レベルによる調節を受けるものではなかったが、本観察が今後領域Xを基盤とした種々疾患の理解へと研究対象を拡張する礎になると考えている。
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