肺静脈は血管ではあるが、左心房から続く心筋層が存在している。肺静脈心筋で発生する電気的興奮は心房細動の原因となることが臨床的に示されており、近年注目されている。そこで、本年度は高速共焦点レーザー顕微鏡を用いて、単離したモルモット肺静脈心筋の細胞形態とカルシウムトランジェントの時空間的パターンを、心室筋細胞および心房筋細胞と比較した。 肺静脈心筋細胞は横紋を有し、筋小胞体に富んでいたが、T管は存在していなかった。これは心房筋細胞に似ており、T管が細胞全体に存在していた心室筋細胞とは異なっていた。電気刺激により誘発した肺静脈心筋細胞のカルシウムトランジェントでは、カルシウムイオン濃度の上昇が細胞膜直下領域から細胞中心部へ向かってウェーブ状に伝播した。この現象は心房筋細胞に類似しており、カルシウムイオン濃度が細胞質全体にわたって同時に上昇する心室筋細胞とは異なっていた。また、多数の肺静脈心筋細胞で自発活動が観察された。自発活動を示す肺静脈心筋細胞のカルシウムトランジェントに先行してカルシウムスパークの発火頻度増加がみられ、カルシウムスパークの増加が、カルシウムトランジェントつまり活動電位の発生を引き起こしていることが示唆された。ナトリウム/カルシウム交換機構阻害薬であるSEA0400を処置したところ、カルシウムトランジェントの発生が抑制され、カルシウムスパークは抑制されなかった。したがって、筋小胞体から放出されたカルシウムイオンが、ナトリウム/カルシウム交換機構を介して細胞外に排出される際に、内向き電流が生じ、これにより活動電位が発生すると考えられた。
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