研究課題/領域番号 |
17K08609
|
研究機関 | 天理医療大学 |
研究代表者 |
金井 恵理 天理医療大学, 医療学部, 教授 (20372584)
|
研究分担者 |
的場 聖明 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10305576)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 心血管 / ミトコンドリア / 心筋代謝 / 抗がん剤 / 酸化ストレス / オートファジー |
研究実績の概要 |
科学の進歩によりがん診断後の生命予後が各段によくなってきた。一方で社会の高齢化により心疾患は増加の一途をたどっており、がんと心疾患両方の問題を抱える患者が増加してきた。我々はこれまでに、がん抑制遺伝子p53とその下流に位置するTIGAR(P53-induced glycolysis and apoptosis regulator)が心不全の進展に大きな影響を及ぼすこと、抗がん剤による心筋障害の初期に心筋ミトコンドリア機能異常が関与しこれを抑えることで心不全への進展を阻止できることを動物モデルで示してきた。また、心筋ミトコンドリアの質とオートファジーの制御が心不全のコントロールに重要な役割をはたし、ミトコンドリア代謝のkeyとなる酸化ストレスの制御について報告してきた。しかしながら、臨床におけるどのような介入が心不全の進展阻止に最も効果的なのか、特に近年問題となっているがん化学療法中の心不全への影響についてはわからないことが多い。 そこで本研究では、まずこれまでに解明したp53-TIGARとオートファジーの制御を軸として、がん化学療法で問題となるさまざまな心不全モデルや肺血管障害モデル、糖尿病などの代謝モデルを作成し、メカニズムの解明を進め、治療介入の可能性を探った。ミトコンドリア研究では新たにアミノ酸代謝にも着目し、ほ乳類の心筋エネルギー代謝に関与する新しいmoleculeを発見した。ミトコンドリア糖代謝の検討では、既知の生薬による治療介入の可能性を探った。こういったミトコンドリアに関する基礎研究を臨床に活かすには、ヒトにおける客観的な指標が必要である。そこで、ヒト酸化ストレスを客観的かつ簡便に、がん化学療法中の患者にも適応できる検査方法や、凝固の評価方法を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心不全基礎研究としては、現在までに次の点を解明した。①オートファジーとROSの抑制が重篤な肺高血圧の進展を阻止することを示した。我々は、TIGARノックアウトマウス(TIGAR KO)を用いて、TIGAR KOがコントロールに比べ死亡率を上昇させ、肺動脈圧が2倍以上になること、有意に肺動脈の肥厚と肺平滑筋細胞の増殖が起こり、オートファジーが惹起することを示した。② 心保護とエネルギー代謝に関係する新たなmolecule 9030617O03RiKをProteomicsとMicroarray法などによって発見し報告した。このmoleculeのknock out miceを作製したところ、ほ乳類では通常存在しないD-体のアミノ酸が蓄積、D-体アミノ酸代謝が心不全の進展に寄与する可能性を示した。③マウス大動脈結紮による心不全モデルにおいて、不全心ではD-β-hydroxybutyrate dehydrogenase(Bdh1)の発現が上昇し、同時にケトン体酸化が亢進することを発見した。トランスジェニックマウスの作製によって、ケトン体の酸化は酸化ストレスを軽減して心保護的に働くことも示した。 ヒト臨床研究では次のことを明らかにした。④ヒト酸化ストレスを客観的に測る方法として、唾液などにふくまれるThioredoxinに注目し、酸化ストレスが惹起されると報告のあるsmokingについて検討した。Smokingの習慣のあるvolunteerをリクルートし研究を進めたところ、唾液検体でも十分に客観的に酸化ストレスを計測しうることを示した。⑤酸化ストレスに影響されるヒトの凝固能について、心疾患患者に広く用いられているワーファリンの影響を軸に検討した。
|
今後の研究の推進方策 |
基礎研究においては、ドラッグリポジショニングの観点から、既知の生薬による治療介入の可能性を動物実験モデルで進める。まずは昨年度までに得た結果の解析を推進する。次に、本研究の成果から、がんと心疾患研究における老化の視点の重要性がより明確になってきた。そこで、新たに血管老化のモデルを作成し、これまで報告してきたp53-TIGARなどのエネルギー代謝研究を展開し、メカニズムの解明を進める。 臨床研究においては、昨年度報告したヒトにおけるミトコンドリア機能を間接的に推測しうる唾液Thioredoxinを計測する方法を用いて、がん化学療法中の患者における観察研究を進めたい。しかしながらコロナ感染拡大収束の見通しはつかず、現時点では、患者血清のみを扱うなど患者と接しない方法による検討に切り替え、ヒト観察研究を推進する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度までに、おおむね研究の成果は得たものの、コロナ状況により、いくつかの研究、とくにがん患者を対象としたヒト観察臨床研究は中断することを余儀なくされた。このため、研究方法を、患者血清のみを扱うなど患者と接しない方法へ変更し研究を進めた。この変更のため、結果の収集が遅れ、消耗品等の次年度使用が生じた。 また基礎研究においても、研究室への入室制限や解析薬品納入の遅れなど、実験自体や解析に遅れ、次年度での使用となった。 以上から使用計画としては、研究方法の変更と消耗品納入遅延による実験消耗品、あるいは解析の完成と論文投稿に用いる。すでに5月現時点で、ほぼ予定通りに進行しており、今年度中に解析と報告が修了する見込みである。
|