痛みにより引き起こされる不安、嫌悪、抑うつなどの不快情動は、生活の質(QOL: Quality of life)を低下させ、精神疾患・情動障害の引き金ともなるため、情動的側面をも考慮した疼痛治療が求められている。本研究では、快・不快といった情動の両方向性に深く関与すると考えられる側坐核に着目し、Gタンパク質活性型内向き整流性カリウムチャネル(GIRKチャネル)のGIRK2サブユニットに自然発生的に遺伝子変異を有するweaver 変異型マウスに着目した解析を行った。Weaver 変異型マウスでは、ヘテロ型変異マウスでは部分的に、ホモ型変異マウスでは完全に、メタンフェタミン誘発の場所嗜好性が消失していること見出した。さらに、in vivoマイクロダイアリシス法を用いた解析において、weaver 変異型マウスではメタンフェタミン誘発の側坐核内ドパミン遊離が亢進されるものの、その程度は野生型として有意に低下していることを明らかにした。さらに、weaver 変異型マウスにおけるc-fosタンパク発現変化を指標とした神経活動興奮変化の検討を、免疫組織化学的手法を用いて行った結果、野生型マウスで見られるメタンフェタミン投与による神経活動興奮の側坐核内領域特異性(矢状切片における分布の局在)が、weaver 変異型マウスでは異なっている結果を示し、メタンフェタミン誘発の報酬効果の発現において、側坐核内の吻側shell領域の神経活動亢進が重要である可能性を示した。これらの結果は、GIRKチャネルはメタンフェタミンの直接的な作用標的分子ではないものの、ドパミン神経伝達経路を介した報酬効果発現を調節していることを示し、さらに、報酬効果発現において側坐核内での領域特異的役割が存在することを示唆している。
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